第18話 もう一つ存在する構成の式

 現実世界において、立体ではないものの方が珍しい。その定義を言及するのではなく、立体であることを当たり前のものとして思考したい。


 ゆえにここで、魔術構成の話をする。


 左右を繋げる連立式、上下を繋げる複合式、二つを混ぜ合わせる混合式――それらを展開したのならば、まるでディスプレイに映し出された図面のように認識することができる。

 以前、構成の話をした時に、箱でたとえたのを覚えているだろうか。

 箱をくっつける連立、乗せるよう繋げる連立、箱同士を混ぜる混合。


 ――そこに、では、奥行きはどうなっているのかと、疑問を抱いただろうか。


 それを重複ちょうふくしきと呼ぶ。


 複合とは違って、それは立体を描くために必要な要素。構成を使って術式を具現したそれが、現実において〝立体〟であるのならば、構成も立体なのではと考察し、研究する魔術師も半数はいる。

 いるが、そこに至った者は、ほとんどいない。

 とにかく――難しいのだ。


 いわゆる、立体式と通称される術式の構成は、あくまでも現実において三次元の立体を構想するものであって、重複式そのものとは違う。

 格納倉庫ガレージと呼ばれる立体の荷物袋や、空間転移ステップにおける座標指定。これらには三次元式、つまり立体の構想が含まれている。


 そもそも立体であることは、多角的視点や触れることなどで確認できるが、魔術構成を展開式にしたところで、確認そのものは、できない。何故ならば、横から見ることができないからだ。

 展開した時点で、それを停止して横から見ても、どうしたって〝正面〟と同じものになってしまう。何故かというと、展開されたものは現実に影響を与えておらず、脳内の意識を表に表示しているようなもので、認識それ自体が平面だからだ。

 では認識を変えればいいのか?

 ――どうやって?


 この、どうやるのかが説明できないことが、一番難しいかもしれない。


 縦横しかないグラフの中に、もう一つの比較条件が出現したようなものだ。重複式を覚えた魔術師は、それこそ頭一つは軽く飛び抜ける。たった一つの術式に対する〝理解〟が、他者よりも一つの軸ぶんだけ、情報量が多いのである。


 だが、魔術師ならばそこを理解しなくては、ならない。

 意識して探求することよりも、覚えておいて己の研究を続けた方が、発想の飛躍と共に理解を得られる場合が多い。

 つまり、重複式に関しては、これ以上私から説明できることがない。

 ただ、仮に私が重複式を誰かに教えるとしたのならば、その相手の展開式を見て干渉して、実際にはこういう立体になっているんだぞと、変えてやることくらいか。

 かといって、それで理解できるわけでは、ない。そうなのかと研究ははかどるだろうが、改めてそれを展開できるのには、相当の歳月が必要になる。


 だから、こう、覚えておいて欲しい。

 展開式を見たのならば、それは、あくまでも魔術構成における、一つの側面でしかない、と。

 けれど、重複式を覚えたからといって、展開される構成の〝中身〟が変わることは、ない。

 理解力不足が露呈するような現実を受け入れるのも、成長には必要か。



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