第17話 武術家の呪術式と妖魔

 厳密に言えばこれも魔術の分野に含まれるが、混同して考察可能なのはごく一部であり、あくまでも〝参考〟にする程度のものとして、ここで紹介しておく。


 武術家とは、古来より日本に存在し、武術を身に着けそれを生き方とする家名である。


 遭遇してみればわかるが、彼らの体術、つまり〝武術〟は、魔術師が覚えるようなそれと、違う。何がと言われれば〝捉え方〟なのだろうけれど――まあ、おいそれと真似できるようなものではないだろう。


 そして、武術家の〝敵〟とは、妖魔と呼ばれる存在である。


 妖魔を魔術的に捉えたのならば、意志を持った高密度の魔力の塊、となる。しかし現実的に捉えたのならば、妖怪あやかし魑魅魍魎ちみもうりょう、その総称こそが妖魔なのだろう。

 しかし、普段暮らしていて、妖魔を遭遇することは、まずない。

 いるにはいるのだが、そもそも住んでいる場所が違うというか、領域が違うため、遭遇したとしても気付くことはない――活動時間はやはり夜だが、歩き回ってもわからないだろう。

 ただ、妖魔にも種類が多くあって、その中にも個性が存在し、その対象を自分の波長が偶発的にも〝合う〟ような状況が、ごくごく稀に発生したのならば――遭遇することがある。

 対処法は、相手の妖魔がいたずら好きなだけで、好戦的ではないことを、ただただ祈ることくらいなものだ。


 妖魔は人間の〝天敵〟である。


 これは、何がどうではなく、そもそも、世界法則ルールオブワールドに刻まれている事象だ。

 妖魔は、人を、喰う。

 その上、存在が魔力ならば、物理的な攻撃は効力が薄く、その魔力を消そうとしたのならば、存在そのものを消そうとすることと同一であり、こちらもまた困難だ。


 そのために、武術家は呪術式を扱う。


 基本は陣を前提とした強化系であり、言術と類似はするが、その実はまったく別物である。

 呪術の根源は、足場の確保、領域の確定、自己存在の確立――現実としては、もちろん〝技〟としての派生はあるにせよ、基本的には、妖魔の領域そのものに〝合わせる〟ためのものだ。


 武術家は妖魔を討伐する、その手段として呪術式を学ぶ。


 妖魔の討伐を簡単にする方法は二つある。

 一つは武術家のよう、妖魔の領域に立ち入ることで、本体との直接対決をする。

 もう一つは、妖魔の領域からこちらの現実に〝引っ張り出す〟ことで、討伐をする。


 ちなみに呪術では、どちらも扱うことができる。現実に影響を与えたくない場合は前者、なりふり構わないのならば後者か。

 ただ、前者の場合は武術家の錬度が高くなければ、まず無理だろう。


 いずれにせよ、武術ありきの呪術式であることは、間違いない。

 呪術式には地水火風天冥雷ちすいかふうてんめいらいではなく、木火土金水もっかどごんすいの属性を扱う。陰陽の流れも汲んでおり、詳しく話せばこれはこれで面白いのだが、魔術とは離れるので、この時点では割愛しておこう。


 妖魔にも人間の姿を持つ者もいる。見分け方は簡単だ――そもそも、彼らの存在は〝重い〟のである。

 傍にいるだけで威圧に似た感覚がある。自分の躰が動かなくなるような重さを、敵意などと関係なく周囲へと振りまく。

 言ってはなんだが、それを感じたら、死を覚悟するくらいには、厄介である。

 天敵とは、そういうものだから。



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