第16話 幻想種の存在と種族差

 人間を人間たらしめているものの要素について考察した時、その曖昧さにため息を落とし、ことその比較対象が自動人形オートマタであっても、魂の存在そのものだ、なんて結論を出したくもなる。

 人間以外の別種族が、存在することを知っていても、実際に遭遇したことのある人は、実は少ない。

 そもそも、隠されているものを見つけるのは、偶然という作用がなければまず無理で、じゃあ何が困難なのかというと、偶然そのものの発生であって、じゃあ偶然の解明をまず先にすべきだと、探求する魔術師もいる。


 人型であるのならば、それは人であり、それ以上の疑問を生まない。それは良いことであるし、それが自動人形と人間との差がわからないことへの、侮蔑を含まれない。

 それでいいと、少なくとも私は思う。もちろん、魔術的な研究においては、区別すべきだろうけれど。


 猫族――身体能力がやや高く、こと上下の移動に関しては追随を許さない。四つ耳と称されることもしばしあり、頭の上に二つの耳がついている。猫の姿で生活することも。

 狼族――地上の行動に関して飛びぬけており、ふさふさの尻尾を持つ。純血種の中には、巨大な狼に変身する者も。

 巨人族――筋力を含む力において、突出した一族。見た目は人と変わらず、逆に小柄な者も多いが、その腕力だけを見ても、並ぶことができない。言術げんじゅつで強化しても、難しいだろう。普段は抑制しているが。

 竜族――空を駆る一族で、爬虫類の尻尾を持つ。竜変身をすると文字通りの竜となり、空を飛ぶ。だが、プライドが高く選民思想も強いため、人間の中に潜り込むことは、ほぼない。


 大きくは、この四種族がある。


 それぞれを魔術師として見ると、魔力量が大きいのが竜族、術式威力が高いのが巨人族、外世界干渉系を主体とするのが狼族、そして猫族はともかく、細かい術式をやたらと使う。遊び半分で。あいつらだけはただの猫だ。頭が痛い話である。


 ――幻想種。


 これに関しては、おとぎ話に出てくるような、そういう存在の〝総称〟になる。


 個人的な話を、少しだけ、挟ませてもらう。

 私は、長い時間を生きてきた。

 千年? 二千年? あるいはもっと――それこそ、数えるのも馬鹿らしいほど、ずっと誤魔化しながら生き続けた。それは自殺を己の意志で封じた私に、課せられた束縛のようなものだったのだろう。

 ただただ、私の肉体は老化が遅かったのだ。それこそ、一般人の数億倍ほどの速度で、肉体は時間を刻んでいて、あることがなければ私は、死ぬことすら難しかった――が。

 それだけの時間を生きてきて、私が出逢った幻想種は、四人だけ。


 大地の覇者、ビヒモス。

 徹底の観察者、ベルゼブブ。

 夜の王。

 海の支配者、リヴァイアサン。


 おそらく、どれほど魔術の探求をしたところで、その存在の片鱗に触れることは、難しい。いや可能だろう――生涯、その探求を彼らに向けたのならば、あるいは。

 ちなみに、夜の王には名前がない。彼は、吸血種と呼ばれる者の、頂点に立つ存在だ。ああ、だったら少し、吸血種の話くらいは付け加えておこう。


 夜の王が気まぐれに指を落とした結果生まれた、三人の吸血種。二人は金色の髪を持って生まれ、再生能力が高い金色の従属。そして、一人は黒の髪を持ち、高い身体能力を得た闇夜の眷属。

 だが、彼らは人を襲って血を吸うような存在ではなく――ただ、傷を負って自分の血の純度が低くなると、外部から血を摂取して高めなくてはならない、そういう制限のある存在だ。

 いずれにせよ、滅多に人前には姿を見せないし、魔術をかじった人間ならば、見た瞬間に、その異質さを理解するだろう。


 魔術師の中には、幻想種を含め、他種族の研究をする者も存在する。それがひいては、人間の存在への理解を深めることになるからだが、たぶん、理由はそれだけではあるまい。



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