第19話 超大規模集積陣の存在と運用方法

 魔力を集めよう、そういう試みはどの魔術師も一度は考えるだろう。

 何故かといえば、魔力そのものが有限だからだ。


 回復はもちろんするが、連続する戦闘において魔力の枯渇を回避したい――が、模索したところで、手段はそれほど多くはない。おそらくもっとも活用されているのが、平時において魔力そのものを宝石に入れておき、それを緊急回復とするものだろう。

 携帯回復薬、というわけだ。

 これには問題もあって、そもそも蓄積させることが容易ではなく、それを使って回復する魔力量と、宝石自体を術式とした魔術品の魔力量と、それほど大差がない場合が多く、それならば最初から、戦闘における魔力消費量を抑制した方が良い。


 魔力を集めるための一つが、集積陣ノーズである。


 かつて、と言うべきか。あるいは今、と言うべきか。

 いずれにせよ、四国の領海に存在するギガフロート、正式名称は海上都市ヨルノクニにおいて、この式陣が敷かれている。


 超大規模集積陣ギーガアトモスノーズだ。


 私自身はこれに一切関与していないし、着手もしておらず、そもそも集積陣に対してあまり利点を見出してはいないが――それはともかく。

 集積陣とは、周囲のマナを集めて魔力へ変換することが、基本的な仕事である。

 何故ヨルノクニに布陣されていたのかと言えば、海に浮かべるための補助としての術式で、上手くそれを利用した者はいるが、まあ、基本は基本だ。


 基本といえば、実はこの式陣は、あらゆる儀式陣の基本でもある。

 改めて説明すると、儀式陣とは多くは地面に描くことで効果を発揮する術式だ。これは一般的な術式をより強力にする方法でもあり、複数人で同一術式を使う方法にもなる。

 大きな術式には、多い魔力が必要だ。そのための集積陣である。


 集める魔力は指定できる。先述した多人数での術式行使の式陣であれば、指定位置についた者の魔力を吸い取るように集めるよう指定すれば良いし、あるいは自然界の魔力だけ、というのも可能だ。

 海上都市ヨルノクニの場合、自然界の魔力と打ち寄せる海の波が発生させるエネルギーを、魔力変換していた。


 二つ、問題点がある。

 変換効率と、集積した魔力の用途だ。


 幽霊屋敷なんて言葉に代表される怪しげな屋敷。仮にその家系において一人でも魔術師が存在していたら、集積陣が敷地内に存在すると考えて間違いない。

 魔力とは、本来ならば自然消滅するし、自然に溶けて一部はマナへと還元されるわけだが、集積陣はそもそもが目的であり、散らすことをむしろ避けるのが一般的だ。

 魔力が濃い場所は、利点もあるにはあるが――好ましくない。自然発火なんて呼ばれるものも、そういう場所に多いし、常に術式が暴発する危険性を孕む。人だとて、魔力容量の80%が限界とされているのだ――腹八分目、ではないけれど。


 簡単に言えば、


 さて、集積陣において問題となるのが、この変換効率である。


 100のマナから、果たして利用可能な魔力がどの程度、取得できるのだろうか。

 答えから言うと、実は80くらいは取れる。

 ただし、この80の内、どうがんばっても40強は、に必要な魔力となってしまう。

 結論だと、せいぜい集積陣に含ませた本来の式陣に使える魔力、集まった魔力は、40弱だ。

 六割のロスと考えて欲しい。――実用的か?

 このあたりが、私が扱わない理由でもある。

 実用的にするには、規模を大きくするしかなく、それができないなら歳月を経るしか方法がない。

 大規模集積陣を用意しておいて、火を熾すために使うのを、間抜けと呼ぶのだ。


 魔術なんてものは、やり方次第。


 魔力そのものも、足し算引き算だけではない。


 集積陣はただ集めるだけで、凝縮も圧縮もされていない。小さな魔力で動く巨大な術式も、世の中には存在している。

 ただ。

 超大規模集積陣ギーガアトモスノーズの役目が、ギガフロートを浮かすために使われているのが現実で、式陣の面積範囲ならば、海上に浮かせることも可能なのは証明されている。

 あれほど効率化をした式陣を、作れと言われればできなくもないが――さて。

 時間があれば、作ってみて欲しい。

 魔力を集めるという現実と、その難しさを体験できるはずだ。

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