第12話 自動人形の作り方、使い魔の在り方

 日常生活を行いながら魔術研究をする者も少なくないが、生活補助のために自動人形オートマタを傍におく魔術師もいる。簡単に言ってしまえば、ある種のAIを搭載したロボットのようなものだ。それを、魔術的に生成するのである。


 一番簡単で、最も困難な方法は、魔術品に〝たましい〟を精製し、それを人形に埋め込むことだ。


 魂魄こんぱくの在りように関しても深い知識が必要になる。魂魄に応じて肉体が変わるのか、それとも肉体があって魂魄のかたちが決まるのか、その定義は未だに不明なままだ。

 更に言えば、たましいの精製は人間の創造といった禁忌に触れることがあるため、その見極めを越えると、世界法則ルールオブワールドを逸脱しかねず、その先にあるのは必罰である。気を付けて欲しい。

 ただ、ある種の自動人形においては、人間の変わらぬ躰と意識を持ち、核となる宝石が心臓として、魔力で動いてはいるものの、それこそ人間そのものである。


 一般的に自動人形オートマタを作る際は、まずその行動理念における定義をさせる、核となる魔術品を作らなくてはならない。

 この時、人形の行動をいちいち指定するよりも、ある程度の範囲を指定してやった方が効率的である。

 屋敷の管理、もっと小さく家事、あるいは更に小さく料理など、行動範囲を狭めれば狭めただけ、難易度は下がる。汎用性そのものこそ、最大の壁になるだろう。


 魂の精製をしない場合においての人形は、できるだけ人間に近いものを作った方が良い。多少は設定した、つまり魔術品の構成に〝寄る〟けれど、ほとんど表情を作らず、端的な会話を前提として、特定の範囲のみを行う自動人形の場合、外観よりも機能性を優先するため、それ以外の部分を、人形の器で補完してやるわけだ。

 たとえば料理を範囲指定して魔術品を作った場合、自動人形は料理の知識を持ち、器用な両手に自然と設定されるが、それ以外の部分は必要ないと除外することも、多くある。これは人形にその魔術品を組み込んだ時点で、ゆっくりと馴染みながら完成するのだが――。

 極論。

 両足の稼働が限定的であり、五感はあるが無表情、なんてこともありうる。そんな現場を見たこともあるが、あれはちょっとしたホラーだ。侍女服を着せて家政婦に見せているのに、顔を見るとびっくりである。

 まあ、そういう趣味の魔術師がいるかもしれないが。


 魔術師の中には〝人形〟だけを造る人種もいる。

 器となる躰も魔術品になるため、多くの魔術素材を費やし、造形そのものも複雑になるため、専門職が発生した。

 ――究極、あるいは最高峰の人形師は、それこそ等身大のパペット人形のような、一見すれば子供が遊ぶ人形のようなものしか、造らない。

 だがそれを見て、魂との親和性を見抜けたのならば、最高の自動人形オートマタが造れるはずだ。


 一応、ここで戦闘人形コッペリアとの違いも説明しておく。

 こちらは単一での戦闘を目的とする場合もあるが、どちらかといえば戦闘補助の役目が強い。たとえば、近接戦闘特化の戦闘人形を使うことで、魔術師本人は後衛に徹することもできる。

 また、屋敷などを構えた際、庭の巡回などの警備をさせるためのもので、戦闘思考を持つ場合が多い。

 魔術品と魔術武装のよう、区切られている。


 似ているのが使い魔になるが、こちらは生身の動物を扱うことが多い。

 基本的には鳥や猫など、小さく素早い動きをする動物を選択する。偵察や監視を前提としており、人間と同じ動きを期待しないからだ。

 この場合、使い魔と〝契約〟を結ぶ場合と、強制する場合の二種類がある。

 強制とは掌握、把握によって行動を制限しつつ、思い通りに動かすこと。契約の場合は相互理解、および人間的な思考を与えることの見返りなど、対価に基づいたものとなる。


 術者本人の血肉を分け与える方法も、ある。


 事故などで瀕死の状態の動物に対し、自らの血肉を与えることで繋がりが発生し、そこで契約を持ちかけたり、行動を共にする場合だ。混ざっているとはいえ、自分の一部が使い魔に存在するため、繋がりが強くなる。

 こうなると、術式の親和性が非常に高くなり、ともすれば、使い魔に術式の補助や増幅を任せるなども可能だ――が、もちろん条件は厳しい。

 いずれにせよ契約は、強制と違って、お互いの意思が最大の問題になるからだ。

 同じ方向を見られる相手が理想だが、現実はそればかりではない。


 ただまあ、これによって、そこらの魔術師よりも魔術師然とした黒猫が存在した事実もある。これは私の馬鹿な弟子が原因だ、なんというか申し訳ない。

 同じ方向を見て、同じ道を目指し、そして傍にいることを常とした使い魔は、主から一人前と認められ、主と似たような魔術師になってしまったのである。



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