第10話 世界法則における時間軸の流れ

 魔術において、世界をどう捉えるかは、それこそ無数にある。ただ、変えることができない法則の海こそが世界であり、その器の中に我我われわれは生きていると考えるのは、一般的だ。

 そして法則とは、決して覆ることがない。


 過去→現在→未来。


 この代表的とも言われる時間軸は、決して、覆ることがない。限定条件かであれば未来へ飛ぶことも可能だろうけれど、その理屈は、やや難しくなる。

 少し、魔術的な思考も含まれるが、世界法則ルールオブワールドの一端を紹介しよう。


 未来とは一秒先、二秒先、三秒先のものも含まれる。不確定要素が介在するが、現在は必ず、未来を常に塗りつぶし続けている。

 つまり未来とは、二秒先ではなく、常に一秒先だと捉えることから始める。

 一秒先の未来が確定しない状況を把握し、定義することが可能ならば、それは五秒先だろうが十五分先だろうが、同じ〝未来〟として条件付けできるはずだ。

 更に、そこから同一である未来において、一秒先が〝体感〟であることを前提にしつつ、世界が刻む〝時間〟を天秤に乗せ、自身の一秒を世界の一ヶ月に該当させるよう構成を組み、いくつかの矛盾をクリアしたのならば、転移系の術式――これにも魔力量、威力などの条件がつくが――を使うことで、未来に飛ぶことができる。


 しかし、この条件を俯瞰したのならば、単に自分の立っている〝現在〟の位置が変わっているだけのことだ。


 魔術においては、空想世界と現実世界、そんな言葉を扱うことがある。

 現実世界とは、自分の知覚範囲、見えているものや触れられる範囲のことであり、自意識が確かめられるものを指し、空想世界とは、認識の外側、あるいは新聞で読んだ国外のニュースのよう、実際にそれが〝あったのだろう〟ことを、なるほどとうなずく行為に近い。


 世界の情報全てを自覚することは難しいし、ほぼ、不可能と言っていいだろう。まあ、魔術師においての〝不可能〟は、言い訳に過ぎないなんて言葉もあるけれど。

 であるのならば、現在の位置が、時間軸のジャンプを行って未来の特定ポイントへ移動したところで、自分が経験する現実世界は〝継続〟しており、ただ、空想世界の情報が増えただけ、とも捉えられるわけだ。


 成功例もあるが、しかしこれは、成功したところで確認できるのは自分たちだけで、元いた現在の人たちには、ただ行方不明になっただけ、という結果が残る。つまり成功したところで、それが成功か失敗かは他者にはわからず、自分で確かめるしかないのだ。

 解釈として、可能だけれど、実際にやるかどうかは別物だと、そう言う魔術師も少なくない。できないではなく、――やらないのである。


 そして、過去に戻ることは、できない。何故ならばそこにあるのは、古い情報であり、現在の位置が、戻ることができないからだ。そこは既に〝通過〟しているため、情報が残っているのである。


 だがまあ、魔術師なんていう人種はそのことに関して、皮肉たっぷりの笑みを浮かべながら、嫌味のように、いやいや過去に戻ることは可能だよ、なんてことを平然と言う。

 過去はそこにあるからだ。

 そうであった記録が存在する以上、人が振り返れば必ずそこに過去がある。そして過去に見えるのはいつだって、己だ。

 人が記憶する以上、都合よく改ざんされることもあるし、現実から目を背けた時、未来を拒絶したのならば、人は己の中の甘えを抱き、楽しかっただろう記憶の海から、過去を思い出して、それに浸る。

 それが過去へ戻る、ということだ。けれど、それはもう死んでるのと同じだ――と、意地悪く言う性格が悪い魔術師、ばかりでは、ない……と、思いたい。


 ゆえに、時間を停止させることも、できない。

 仮に停止することができたと、そんな現実を見たのならば、それは、――自分だけが停まっている、ただ一人だけの世界でしかない。


 まとめると、つまり解釈はできるし、条件付けとはいえ可能なものはあるにせよ、時間そのものが、過去から現在、そして未来へと流れることを、人が妨げることも、変えることもできない。

 せいぜい、それを上手く使うこと。それが技術であり、魔術となる。

 世界法則ルールオブワールドとは、そういうものだ。



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