第6話 術式への一歩、自己への埋没
こうしたものは自身の内側に存在するもので、その自覚が第一歩となるわけだが、ここに一つの壁が存在する。
もちろん中には、ほぼ無自覚でいながらも、術式の行使段階にまで及ぶ者も存在するが、基本的には手順として、自己への埋没が必要になる。
現実において、自己認識そのものが、非常に困難であることをまず、意識しよう。
物体の存在において観測が必要なのと同様に、人間もまた、他者の視点が存在しなければ、自己の確立といった点において、問題を孕むことになる。
やり方は多くあるが、これも一例として挙げておく。
似ているのは、一般的に金縛りと呼ばれる状況の中で、外ではなく内部の情報を得ている状態なのだが、金縛りそのものは肉体が眠っていて、意識だけが起きるため、外の情報を得てしまうので、やり方としては不確定要素が孕む。
姿勢はなんでも構わないが、まずは五感を閉ざすところから始める。
思考することを放棄し、目を瞑って深呼吸を繰り返し、呼吸そのものだけを意識する。ここで聴覚の遮断ができるほど深く入り込めば、躰の〝輪郭〟がぼんやりと見えてくる。これが自己境界線と呼ばれるものだ。
今度は心音を頼りに、内へ内へと潜っていく。その時点ではもう、呼吸への意識すらなくなり、海の中を泳いでいるようだと、そう感覚的に思う人もいる。
その海こそが魔力であり、一度それを感じれば忘れることはまずない。
魔力は必ず、どこかに流れている。それは回路であり、そして、己の外側だ。魔力を持たない人間が、まずいないのと同様に、人の気配と呼ばれるよう、それは魔力の漏洩によって示されるものだ。
つまり、流れた先には必ず、魔術回路が存在する。
――だが、ここで〝戻れない〟ことも、忘れないで欲しい。一定数の人間は、そのままどこにも行けずに迷うことがある。
人によっては、その時点で一気に現在へと意識が戻ることもあるが、その限りではない。
自己に埋没すると、己の認識ができるため、外への認識が疎かになる。いや、疎かというか、なくなる場合も多い。
だから手順を逆に踏む。
海の中でまず、心音そのものを探し出し、それが一定のものであることを認識したのならば、そこから自身の呼吸を探る。この二つは、生きている以上、必ずあるから、諦めないで探して欲しい。
その時点で大半は戻れるが、それでも戻ろうとしても無理な場合は、意識そのものを自身の輪郭に重ねることで、外側の情報を得られるはず。どうしても、安全策を取りたいのならば、時間を決めておき、傍にいる〝他人〟に接触してもらうのが一番だ。欲を言えばその人物が魔術師ならば、まず間違いなく問題ないだろう。
言術の鍵も、自己の中心に存在する。
それが〝何か〟はわからないかもしれないが、意識が浮上した際に、ふいに口を衝いた言葉がそれになる。意識せずとも出てくるだろう。
これをやらなくては、術式に触れることは難しい。
だがここからようやく、魔術師として始まるので、魔術の知識を蓄えなくては、先に進めないのも事実である。
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