第5話 文字式と言術

 機能が限定されているとはいえ、文字式ルーン言術げんじゅつに関しては、比較的簡単に扱うことが可能な術式の種類になる。

 安易な方法と言えば聞こえが悪いけれど、現実として安易に扱う者も存在することは知っておいて欲しい。そして、ただそれだけの相手を、認めることは避けるべきだ。


 文字式とは、世界そのものに規則として存在する術式である。いわゆる、魔術構成そのものが、既に世界に存在しており、特定の文字を描くことで、その構成を引き出し、効果を発揮することができる。

 単一文字が基本となっているが、複合文字としても組み合わせが可能だ。簡単であるがゆえに、魔術師はほぼ、文字式から術式そのものへの理解を深める。仕組みを理解するのにわかりやすいからだ。

 ただし、前提として魔力を込める行為に自覚的でなければ、それはただの文字でしかない。まずは己に合った、魔力量に応じた文字として、サイズと効果を理解しつつ、経験して欲しい。


 言術とは、言葉を鍵にする術式であり、身体強化系を主体とするものだ。

 まず、自己に埋没し、その底の底に埋もれている己の〝言葉〟を抜き出す。そして、世界に存在する構成を呼び出し、己の鍵である言葉を付け加えることで、特定の効果を発揮する。

 速度強化を行う〝疾走〟に加え、自身の鍵である単語を付け加えれば、術陣と共に身体の強化が証明される。こちらもまた、習得が容易い側面を持つため、安易な戦力向上として学ぶ者も少なくない。

 鍵となる言葉に種類は多くある。解、礎、自戒など、当人の個性を示す場合が多くある。

 疾走の解、疾走の礎、疾走の自戒。

 この三つは、扱う者が違うだけで、同一の効果を発揮する。ただし、効果の強弱は術者によって左右する。身体強化であるため、走り込みなどにおける基礎体力の増加などは、言術使いにとって重要な鍛錬となることは明らかだ。


 ――さて。


 こうして紹介してしまうと勘違いされそうだが、魔術師と呼ばれる人種において、これらの研究をしていない者はおらず、つまり、普通の術式を含めて、文字式も言術も扱う存在は、極めて普遍的であることを、理解してもらいたい。

 これも戦闘でのたとえになってしまうが、まず言術で身体強化を行いながら、特性に合わせた術式を使いつつ、移動の最中に足で文字式ルーンを描いて罠とする、なんてことは魔術師の基本戦闘でもある。



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