第3話 魔術回路、それに伴う魔術特性

 体内に存在する魔術回路そのものを認識可能な魔術師は極端に少ないが、存在それ自体を意識しない魔術師もいないだろう。

 魔術回路の役目とは、魔術におけるある種の〝指向性ベクトル〟を持たせる役目がある。

 そもそも、魔術と一括りにするが、内容はさまざまだ。それこそ〝科学〟に無数の分野があるのと同じである。

 魔術回路に〝同一〟のものはない。魔力を魔術回路に通した時点で、己の魔力に色付けをすることで、魔術構成を作成するための準備を行う。その中で、魔力が通りやすい回路が人には必ず存在し、それを魔術特性センスと呼ぶ。


 だがそれは、あくまでも〝通りやすい〟ものでしかなく、誰でも回路の中には〝通りにくいもの〟があるのを、忘れてはならない。


 人は、安易なものを、その通りと受け止めやすい。これは仕方がないことだ。

 たとえば空間転移ステップの術式を得意とする、そんな特性を持っていた場合、それだけしかできないと勘違いしがちなのである。

 しかし、そんなことはないのだ。

 ただそれを理解しながらも、単一特性のみに特化した魔術師もいるし、それが一つを伸ばすだけでなく、ほかをあえて〝封じた〟のだから――と、これは余談になるか。


 多くの場合において、魔術回路を魔術特性とイコールで繋げることがある。特に研究ではなく、会話ではそういう認識がほとんどだ。


 魔術特性そのものを語ると、それぞれの魔術に深く言及することになるため、ここでは避けるが、簡単なものを説明しておく。


 大きな属性種別としては、七則ななそくと呼ばれる地水火風ちすいかふう天冥雷てんめいらいが、魔術の中では一般的だ。

 私の中で印象的なのは、火系術式しか扱わなかった、初代〝炎神〟エイジェイだ。余談とは言ったものの、ここで紹介しておこう。


 火系列の術式と言われて、火の球を飛ばすようなイメージが、あるだろうか。

 もちろんそれは現実的であるし、可能だが、世界においてそんなに簡単なものを、戦闘で使う者は、三流以下だ。最低限、ゼロ距離で使えるよう体術を仕込み、その上で扱うようならば脅威だと認められるが、それは認めるだけで、それが戦闘である以上、そんなことの対処が疎かな者を、魔術師とは呼ばない。

 彼は、得意な攻撃パターンなど、持っていないし、それだけの技量を所持していた。それこそ世界レベルでの話になるので、それはそうとして、どんな術式を使っていたかの話をしよう。


 それは、間違いなく、全てが火系術式であった。


 火で周囲の空気の乱反射を操作し、自身の姿を誤認させるところから派生させ、攻撃そのものが目で見えているものよりも、実像が三センチほどズレるような攻撃の中、それをやらないものも含まれ、虚実を作る。

 直線的な移動の最高速を求めるために、足元で爆発を起こして加速する方法もさることながら、それを〝相手〟に向かって使うことで、相手の踏み込みに意図しない加速を生むこともする。

 では、威力はどうか。

 超高密度に限界まで凝縮されたゴルフボールよりも小さいサイズの火の球は、人間どころか都市を半壊させるほどの威力にまで至る。

 あと、煙草の火を点けるのに便利らしい。


 単純な火の特性だけで、軽くこれだけのことが可能なのが、魔術と呼ばれるものだ。汎用性など、現実に起こりうるすべてと言えるほど、想像力の中から理屈を整え、構成を作れば具現する。


 魔術回路そのものは、人間の存在過程においての個性であるため、根源的に変更することは不可能とされる。何をどうしたって、隣にいる友人と自分が〝同じ〟になれないのが現実だからだ。

 ゆえに、魔術師とは他者との違いをより明確にし、自己に潜ることで研究を行うのである。



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