第4話 十七年越しの懺悔



 二人で店を探す道のり、俺は木村さんの隣を歩くのが少し恥ずかしかった。俺の身長は百六十ちょっとなのに対して、彼女の方は百七十くらいある。

 普段街中でだって、俺より背の高い女の人にはよく会うけど、二人で並んで一緒に歩くとなると、ちょっと事情が違う。


「木村さん、行きたいところとかある?」

「ううん、特には」

「同窓会会場に行くとき見つけたんだけど、次を右に曲がったところに一件カフェあったから、そこにしよう」




 休日の夕方とあって、カフェは大賑わいだった。何とか二人分の席を確保し、コーヒーを買って荷物を置き、一息つく。


「比嘉君、卒業してからどうしてた?」

「中学高校と私立に行って、大学は国立行きたかったんだけど、落ちたから滑り止めの私立に入ったよ。今はカンザキデパートで商品開発してる。そっちは?」

「私は頭悪かったから、中学を卒業してからは公立の底辺高校中退して、今は中華料理屋で修行してる」

「へえ、プロの料理人か」

「うーん……修行中の身だから、プロの料理人とは名乗れないけど、まあ料理を生業にはしてるね」



 俺達はお互いの仕事の話や、中高生時代の話を楽しんだ。六年二組の話が出なかったのは恐らく、俺が何となく避けていることを彼女の方が感じ取ったからだろう。



                *



「うわ、もう真っ暗だ」

 木村さんは外に目をやり、そう言った。俺も同じく、外をちらっと見た後、腕時計を見ると、もう夜八時だった。


「木村さん、もう帰る? お腹すいたりしてない?」

 俺は謝りたいことを言い出せないまま自分から帰ろうとは言えず、そう聞いてみた。

「いや、お腹はすいてない」

「そっか……」

「適当に歩かない? 動いたら、お腹すくかも」


 カフェを出た後は、デタラメに歩き回った。二人ともこの近辺の事はよく知らないから、交差点で「どちらにしようかな」なんてふざけて笑いあいながら、結局、住宅街の中にあるちょっと広めの児童公園みたいなところに行きついた。


「ちょっと歩き疲れちゃった。座ってもいい?」

 木村さんと、公園の奥の木々のふもとにあるベンチへ向かう。腰かけると、木村さんは「ふーっ」とため息をついた。


「ねえ比嘉君」

 俺が「うん?」と聞き返した後、少し間が空いた。空気が変わった木村さんに、俺は少し緊張する。


「たぶん、小学生の時の話、避けてるよね。どうして?」


 俺の思った通り、木村さんは気付いていた。ちょうどいいと言えば、ちょうどいい。俺は腹を決め、話すべき話を始めた。

「実はさ……俺、木村さんに謝りたいことがあったんだけど、話しづらくて言い出せなかったんだ」

「なあに?」

 ベンチに座って不思議そうに顔をこちらに向ける木村さん。


「木村さん、一組の宏を殴って、いじめられてる美羽を助けただろ。俺は遠くからそれを見てた。覚えてる?」

 木村さんは黙って深めにうなずいた。


「その後、先生にかなりひどく怒られてたよな。何度も叩かれて、空を仰いで泣いてたのが、記憶に残ってるよ。木村さんが泣いてる所なんて初めて見たから。俺がきちんと、自分が見ていたことを言えば、君をあんな目に合わせることもなかったのに。それから卒業するまで、木村さん、仲間外れにされてただろ? 時間が経つほど俺、言い出せなくなって。本当にごめん」

「そっかあ」と木村さんは空を見上げた。そして、手足と胸をグイッと張って伸びをした。


「そんな勘違いさせちゃってたんだ」

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