第3話 十七年間の秘密


 次の日には事件がクラス中に知れ渡り、元々少し浮き気味だった木村さんは『危ない奴』という烙印を押され、卒業するまでずっと仲間外れだった。俺の記憶では、登下校も一人。休み時間も、教室か図書室に行って、一人で本を読んでいた気がする。


 俺が、木村さんは美羽を助けたという事を話せば、少しは違ったはずだ。そもそも、初めに俺がさっさと美羽の所に行って守ってやってたら、こんな事にはならなかった。時間が経つにつれて、その事はどんどん言い出せなくなり、結局、十七年経った今日まで、誰にも話していない。





「ねえ比嘉君、隣、座っていい?」

「いいよ。飲み物は?」

「じゃあ、カルピスかオレンジか、適当にソフトドリンクお願い」

「お腹はすいてない? 何か持ってこようか」

「ああ、自分で行くからいいよ」


 俺は木村さんが扉から現れた瞬間から、あの時の事を謝らなければと思っていた。だが、木村さんがビュッフェで料理をもらって食べている間、言い出そうと思いながらも言い出せなかった。


「お? そこ二人、何話してんの?」

 健二たちが近づいてきた。隣には美羽もいる。どうやら自分達だけでお喋りするのに飽きたらしく、面白くおしゃべりできる相手を適当に探しているらしい。

「えっ! あなた木村さん?」

 美羽は力いっぱい驚いて見せた。ちょっとわざとらしい。


「高村さん、久しぶり」

「久しぶり。今は萩野だけどね」

「あ、そうなんだ」

 健二たちは、俺と木村さんがたいして面白い話題を提供できないと分かると、すぐに他へ移動していった。


「高村さん、結婚してたんだね。まあ、これくらいの歳だし、あの子わりと美人だから当然っちゃ当然か。比嘉君知ってた?」

「いや、今知った」

「へー、比嘉君は高村さんたちと連絡取ってるだろうと思ってたんだけどな」

「全然。俺、一人だけ私立の中学行ったし、そこですぐ他の友達できたし」

「私も学区が違って、一人だけ別だったから、みんなとは十七年ぶりだよ。比嘉君も最初は『コイツ誰だ』って思ったでしょ?」

 俺が「いいや」木村さんが「ホントに?」と言った後、会話が途切れ、木村さんは、持ってきた料理をさっさと食べきった。


「ねえ比嘉君、ここ楽しい? 私、正直もう出たいんだけど。お腹もいっぱいになったし。一緒にどこか行かない?」

 俺はグラスに残っていたビールをくいっと飲み干した。


「うん。行こう」

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