20.深夜の記録

「楓くん!」


 超音波のように高い声で後ろから声をかけられた気がする。しかし、見渡しても誰もいない。気のせいか。ここは、夜の学校である。この場で僕の名前を呼ぶとしたら、セナしかいないのだが、彼女は超音波を出すことができない。唯一出せる人間といえば・・・。

 チー先輩くらいだろう。しかし、時刻は深夜である。僕以外の誰が好き好んで校舎に侵入するというんだ。


「楓くん!! 置いてかないで・・・」


 繰り返すがセナの声ではない。だがしかし、やはり何か聞こえる。コウモリでも住み着いているのだろうか?


「鬼畜ですよ。楓」


 忘れた頃にセナが目の前に現れる。ちょっとびっくりするな!!


「そういえばセナ。何か聞こえないか?」

「ヒイイイイ・・・。幽霊でもいるんですかね・・・」


 セナは、地面についてない足を手で抱えて、空中で体育座りのような格好をしている。自分に畏怖しているのだろうか?


「目の前にいるね」

「あ、そうでした! 私幽霊だったんでした」


 心底納得したように白くて長い髪を揺らす。いきなり白髪になったときには驚いたものだ。やはり、見た目はごまかせても実年齢はごまかせないのだろう。


「ムウ~。私の髪を見て、変なこと考えてませんでしたか?」


 見ると、セナは頬を膨らませている。可愛い。チー先輩のマネだろうか? だとしたら、あざといことこの上ない。


「あははは・・・。白い髪って綺麗だよね・・・。僕も染めちゃおうかなぁ」


 That's rightと言いたいところだが、ヤツは幽霊だ。そこにある恥じらいのない少年の銅像のように、火消し役として代わりに石が飛んでくるかもしれない。

 ただ大怪我するだけで、人体から出てないだけマシかも知れないが。

 って、僕最近考えてること無茶苦茶なんだけど・・・。


「いいですよ。戦前の生まれなのは事実ですからね。それよりも、さっきから無視していていいんですか?」

「何を?」

「楓・・・。あなたなら分かってるでしょう。昨日見てたAVの影響ですか?」


 おい・・・。なんてことを大声で・・・。瞬間セナの口を塞ごうと手を出すが、宙をかくだけだった。

 ていうか、どうして知っているんだ? と、とりあえず、チー先輩が聞いていないことを祈るが・・・。チラっと上を見る。校舎から手を振っているチー先輩と目があってしまった。しまった。存在を認識してしまった。

 今日は何をしてるか? 第二新聞部主催の肝試しの下見だ。もちろん朱里先輩や優香先輩もいるのだが、時間短縮のために校舎を半分に、二人一組のペアとなって深夜に忍び込むことにしたのだ。もちろん学校非公認である。


 で、僕はチー先輩とセナとのペアだったのだが、怖がりなチー先輩を脅かそうとホンマモンの幽霊が画策したのだ。僕は反対したんだ。

 でも、かわいい反応を見たい気もするのだ。と、遊んでたらチー先輩がパニックになってしまい、なぜかチー先輩は3階にいたのだ。


「今行きますから!」


 怖がっているので、置いて行ったことはうやむやにしてしまおう。バレないはずだ。

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