17.第二新聞部の平穏記録
チー先輩のツッコミのおかげか、朱里先輩により外に放置された機械同好会のメガネが静かになり、改めて優香先輩が成果について話し出す。
「それでは改めて、まずは最初にインタビューした軽音部の話からするよ」
と優香先輩が話だしたと同時に今度は「ドンドン」と強く荒々しいノックの音がする。こんなノックの仕方は力自慢をしたい誰かがするのだろうからだいたい誰が来たのかは予想がつく。
朱里先輩はドアを開けながら明らかに不機嫌そうな態度で応じた。
「今度はノックが出来て猿に昇格したと思ったらやはり空気が読めないので・・・・・・・って、なんでそんなに傷だらけなのかしら?」
訪ねてきたのは体中が傷だらけになっていた第一新聞部のマッスル部長。これにはさすがに朱里先輩も驚いたのか、いつもの毒舌が途切れてしまっている。
「お前が俺に渡したこの袋、言われた通りに枕の下に入れて寝たら今朝学校に来るまででこのザマだ。実はなんかの呪いの袋とかじゃないよな?」
隣の部長はなにか不穏さが漂う袋を胸板の前でぶら下げている。それにしてもどうしたらこんなにひどい怪我を・・・・・・
「・・・ご¥んな*い・・・」
「ん?今なんて言った?」
わずかだが朱里先輩は小さな声で謝ったように聞こえた。普段はプライドが高く常に人を見下し罵詈雑言を浴びせている事で周りの生徒からの評判も悪い朱里先輩だが、多分小さな声でも謝ったのだ。こんな姿を見るのは始めただった。
「何も言ってないわ。その袋を渡しなさい」
「ああ。それでこれは・・・」
「部屋に入りなさい。そこの椅子で少し待ってて」
向こうの部長の話は聞かず朱里先輩はマッスル部長を僕達の前に座らせ、自分は怪しげな袋を持ってどこかへ行ってしまった。
気まずい空気が流れはじめる。その気まずい空気の中声をかけたのはチー先輩だった。
「怪我、痛くない?」
「心配ありがとう。俺は大丈夫だ」
「ならよかった」
お互いそんなに仲が良くないせいかマッスル部長はチー先輩に対しぶっきらぼうに返し、そのことで話が進まず部室はまた沈黙と化する。
チー先輩が話しかけたことで今度は優香先輩が少し話しかけやすくなったのか話しかけた。
「怪我、痛くない?」
チー先輩と一言一句違わぬ問い。さっきと同じじゃんか!!
「心配ありがとう。俺は大丈夫だ」
「ならよかった」
さっきと同じ会話を繰り返し終わる。なんなんだこれは?今度は僕がまともに話しかけてみる。
「いきなりこんなことを聞いていいのか分からないんですが、朱里先輩となにかあったんですか?」
『そこは「怪我痛くない?」って聞くところだろ!』
なぜかチー先輩と優香先輩からツッコまれるが、意味が分からない。これは僕が空気を読めていないだけなんだろうか?いや、そんなことはないはずだ。むしろ空気を読めていないのは二人のはずだ。だって、怪我人に同じ質問を繰り返すか?普通。
「そうだぞ。空気を読め」
えええええ!?挙句の果てにはケガをしている張本人、マッスル部長までもに言われる。
最後の砦として小声でセナに「これって僕が間違ってるの?」と小声で聞いてみる。
「そんなことないと思います。私もこのノリついていけませんし。いえ、むしろ意味不明ですし」
と言ってくれた。セナだけはまともな感性をしている。この中で毒されていない唯一の人間のような存在だ。このメンバーは少し、いや、だいぶ個性的すぎる。
そんな絶望に浸っていた時、朱里先輩が戻ってくる。この時程、正義のヒーローが来たと感動したときはない。もう彼女が天使ではないことはわかっているからな。
・・・のだが・・・
「怪我、痛くない?」
お前もか!もうこんな部活耐えられない・・・
朱里先輩がさっきの怪しげな袋の代わりに持ってきたのは御札だ。
「はい、これ。きっとこれでもう災難にはあわないから」
「おう。今度こそ信じるからな」
もし、僕が朱里先輩が原因でこんなことになっているのだとしたらその御札を信じられないなあと思いながら、それを嬉しそうに受け取るマッスル部長を見て可哀想になってきてしまった。
「楓くんどうしたのかな?」
心配そうに僕の目を覗き込んで話しかけてくれたのは優香先輩。
「え、なにがですか?」
「だって楓くん、悲しそうな顔してたよ」
「隣の部長が可哀想に思えて」
「チーからすると楓くんの方が可哀想だよ」
横から入ってきたチー先輩に精神的な大打撃を受け、僕は悲しくなる。
「あはは。そうですよね。空気読めなくてそれでいて他人のこと哀れんで」
「楓くん、しっかりしなさい。あなたは可哀想なんかじゃないわ」
「朱里先輩・・・ありがとうございます」
「よしよし。ただの哀れな子だものね」
・・・・・・一番今の攻撃が重たかった・・・・・・
「皆がなんて言おうとセナだけは楓の味方ですよ」
そんな甘い言葉をかけて、どうせあとで朱里先輩のように攻撃するんでしょ?もう誰も信じられないから。と、むくれていると
「楓くんごめんね。冗談だから」
「チーも言い過ぎたごめんなさい」
「言い過ぎたってことは多少は思ってたんですね・・・・・・チー先輩、それも精神に来ますからやめてください」
「あわわ・・・」
チー先輩は僕が余計に沈んだことで慌てている。そこに姉御肌の朱里先輩がフォローに入る。
「チーちゃんにも悪意があるわけではないのよ。だからそんなに沈まないで。私のも冗談だから」
「先輩・・・」
今さっき凹まされていた先輩に励まされて救われた気になる。悪いのはあなた達ですどね。なんだか頭では分かっているのに変な恩義を感じてしまう。
そうしていつもの部活に戻る。たった一人筋肉質な人がまだいるがそれはスルーなのだろうか?
「じゃあ、今度こそあたしのインタビューの話をするね」
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