11.黄昏時の記録-1

 学校の教室。入学式から間もないせいか今が休み時間であるにも関わらずとても静かだ。

 そんな破り難い沈黙を破ったのは左の席に座っているロン毛だった。


「俺、相沢陽平。隣同士仲良くしよう」

「国崎楓。よろしく」


 手を出されたので握手をする。セナとは違い当然だが触れることができる。机の上に座っているセナは目の前で握手をされるのが悔しかったのかえんがちょをして切ろうとしてくるが当然ながら触れることはできない。


「放課後、占い同好会の部室に来てくれないか?」

「もう部活入っちゃったけど・・・・・・」

「それでもいい」


 部活動勧誘なのだろうか?初対面で握手をしてしまった手前断りにくい。まあ、せっかく出来そうな友達だ。作っておいて損はないだろう。


 放課後になり、やっとのことで占い同好会の部室を見つけた。入ってみると机の上に水晶やらタロットカードやらなにやらよくわからないものが丁寧に並べられていた。入っていいものかとためらっていると、相沢が出てきた。


「やあやあ、わざわざきてくれてありがとう。教室ではちょっと言いにくいことだったから来てもらったんだ」

「まさかの告白!?」

「野郎に告白なんてする趣味はねえよ」


 顔を赤らめていた彼は僕に告白するつもりではないらしい。確かに同性からの告白は少し驚いてしまうかもしれないが。


「えっとな、ここに来てもらったのは教室では言いにくいことがあったからだ」

「うん。聞いた」

「お前が茶化して話の腰を折るから説明し直してやったんだろうが!」

「ああ、悪い」

「本題だがな、お前幽霊にとり憑かれてるぞ」


 彼は水晶を覗き込み得意げに言う。なんだかその姿がイラッとするのでもっと茶化してやりたくなる。


「ええ!?なんてこと・・・お姉さま助けてください・・・ガク」

「俺には見えている。この水晶ごしにおぞましい姿が」


 僕には美少女という形で見えているんだけどな・・・セナはそれを聞いてこちらを覗き込み自分を指差し首をかしげる。


「実はな、ここだけの情報。今朝撮ったクラス写真の中に心霊写真が含まれていたんだ」


 ああ、やっぱか。セナもあのとき僕の隣にいたもんな。一応驚いた振りをしておいた方がいいだろうか?


「それもお前の隣にだ。目線はお前を見ていたそうだ」

「ええ!?ナンダッテ!?」

「そうだろう。片言になるほどビビるだろう?」


 だとしてもいきなり初対面の相手に幽霊がとり憑いていますなんて普通話しかけるか?僕は自覚しているからいいものの・・・・・・


「それはどんな幽霊なの?」

「写真では普通の女の子のようだが制服が違うしなにより透けていた」

「別におぞましくないじゃん」

「写真を見る限りな。この水晶は人の本質をあらわすんだ」


 彼は水晶を手に取り覗いている。彼にはセナのことがどのように見えているのだろうか?


「何が見えるの?」

「顔はぐちゃぐちゃで表情も見えない恐ろしい姿だ」


 それを聞いたセナは心底ショックを受けているようだ。僕にはどう見ても悪い幽霊には見えないのだが・・・


「いいか、ぐちゃぐちゃな顔はな、この世への強い未練と憎しみによるものだと言われているんだ」

「でも写真越しには美少女だったんでしょう?」

「それに関してはこういう解釈もできる。もし写真の顔が表で水晶を通して見える姿が裏だとしたら?」

「裏というのは?」

「彼女はお前を・・・・・・」


「もうやめてくださいっ!!」


 セナはそう叫び水晶を割った。


「ヒイイイイイイイ・・・・・・」


 相沢は本気で怯えている。そして逃げ出した。

 あとに残された僕とその幽霊はぽかんと立ち尽くすことしか出来なかった。そしてそれが口を開く。


「ねえ、楓私のことは怖いですか?」


 なんとも答えられない。考えてみれば僕はこいつの事を何も知らないのだ。今の話を聞いて平然といられる方がむしろおかしいのではないだろうか?


「お願いです。答えてください。信じてください。私は楓に一切危害を加えないと約束します」

「なんでそんなに必死なの?」


 やっとのことで絞り出した言葉はとても冷酷だった。数日間だけだけど一緒に下らない話をして笑いあった仲なのに・・・できれば彼女を信じたい・・・信じたいけど・・・


「必死に決まってるじゃないですか!暗闇の中たった一人でいた私を楓が枷を外して開放してくれたんです。そんなあなたを好きになってしまったんです」


 果たしてそれは本心か?そういえばさっき相沢と握手したときにえんがちょをしていたな。それは彼には本当の姿を見ることが出来たからなのではないか?

 ああ、疑い出すとキリがない・・・


「それと、あなた達を村で殺さなかったのは私が悪霊ではない根拠になるはずです」


 そう言ってどこかへ走っていってしまった。

 本来ならすぐに追いかけるべきなんだろうがまだ決心が固まっていない。

 確かに僕を地下室から連れ出してくれたりチー先輩にとり憑いた幽霊を祓ってくれたりと2度も助けてもらっている。彼女がいなければあそこで死んでいたかもしれない。そう、彼女が助けてくれたことに間違いはないのだ。まだ、彼女に恩を返していない。それが答えだ。


 無駄に広い校内を探し回る。


 もしかして旧校舎か?


 セナは旧校舎三階の教室で夕日を見ながら単調な歌を歌っていた。

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