10.共存記録

 ・・・ボスンッ・・・


 良い子は寝ている午前4時。顔面に何かが落ちてきた。

 ・・・・・・寝起きは最悪だった・・・・・・。


「あ、ごめんなさい。起こしてしまいましたか?」


 そこには黒いセーラー服を着た美少女が立っていた。背は普通くらいで、生気を感じないほど透き通るような白い肌・・・・・・って・・・。


「ぎゃああああああああああああああああああ」

「叫ばないでください。何かやばいものを見たみたいな反応をするのやめてもらえませんか!?」

「自分の胸に手を当ててからそれを言え」


 彼女は叫ばれたことが悲しかったのか目を潤ませて主張するが、相手は幽霊だ。しかも早朝いきなり人の顔面に何かを落とし、え、こんな事で起きちゃうのみたいな反応をするような恐ろしい奴だ。こんな睡眠の邪魔をするやつに同情など必要ない。

 そして、目を潤ませつつも僕から言われたように、彼女は胸に手を当てて必死に考え込んだ。

 少しすると彼女は何か聞いてほしそうにこっちを見てきたので、しょうがなく質問をする。


「なにか気づいた?」

「はっ、私、胸がないようです・・・」

「・・・・・・」


 無視をした。昨日話していて分かったことがある。この幽霊アホだ。


「なんで無視するんですか? 私のこん身のボケ・・・」

「確かにセナの本体はガリガリだったもんな」

「それって私の骨のことですか!? 実物は大きいんですよ?」


 といって自分の胸の前で手をボインと広げる。幽霊の体でも小さいのに実に滑稽な姿だ。


「はいはい、それならZくらいありそうだね」

「なんですかそれは! 今のは・・・。幽霊となって萎んだんです・・・。きっと」

「うん、そっか。心臓との距離が近そうだね」


 なんだかからかうと面白いので彼女に皮肉を言ってみる。すると顔が赤くなりなんだかチー先輩の表情を見ているようでとても面白かった。


「幽霊ですし、心臓の音も聞こえませ・・・。あ、胸が分厚いので心臓の音は聞こえません」

「パット入りの?」

「うるさいですね!それ以上セクハラすると怒りますよ?」


 少し遊びすぎたようだ。それよりもよくセクハラなんていう現代の言葉を使うことができるな、と関心していると部屋の惨状が目に入って来る。本や雑誌や服などが床に散乱していた。いつもは、生活感がないと言われる程まで、片付けているのだ。

 僕はセナを思いっきり睨んでやる。きっとこの散乱している本や雑誌を読んで知識をつけたのだろう。ていうか触れないのにどうしてこんなことができたんだ?


「おい、セクハラの以前にどうして部屋が荒れているんだ?」

「そ、それは・・・。その、ですね。まだ念力がきちんとコントロールできなかったので動かして・・・。練習をしてました」

「それでついでに念力で本を読んでいたと?」

「な、なぜそれを!?」

「さらに、その本は僕の上で読んでいたと?」

「な、なぜそれを!?」

「おい、こら」


 二つも当てられたことに彼女は驚いている。この推理は簡単なものだ。念力を使っているという時点で彼女の性格を考慮し、さらに顔面に落ちてきたものとつなぎ合わせると容易に予想がつく。


「その念力って僕をあの地下室から助けてくれたやつだよね?」

「ええ! 感謝してくださいね」


 彼女は誇らしげにない胸を張る。


「そもそもセナが呼ばなければあんなところに行かなかったんだけどね・・・」

「え?私呼んでませんよ?だって楓がくるまでの記憶が私にはないのですから」

「僕が来て幽霊になったってこと?」

「さあ?存在はしてたけど長い年月が経って存在が薄れてただけだと思うのですよ」

「よくわからないがお互い助けあったんだよね?」

「そういうことです!さすが楓ですね!改めてよろしくお願いします」


 何がさすがなのかは分からないがセナが握手をしようと手を差し出して来る。僕も手を差し出すが、当然のことながらまるでそこには何もないかのように彼女の手をすり抜ける。やはり幽霊に触れることはできない。

 彼女ははにかむようにして少し寂しそうに笑う。それを見た僕は腫れ物に触るように優しく微笑んだ。彼女が可哀想で仕方なかった。

 空気を変えるためかセナは突然話題を変える


「あのですね、ここにいて思い出したことがあるんです」

「なにを?」

「私の生まれ年です」

「それって朱里先輩の言ってた旧女子高の制服でじゃなくて?」

「はい。楓の近くにいたらこうビビッと来ました。実は私の生まれ年1944年です」

「つまり、ナナジュ・・・」

「はい?それは言わないお約束ですよ?私は15歳の幽霊ですから。こういうのを永遠の15歳って言うのでしょうね!」

「ぶふぉっ・・・・・・」


 辞書が飛んでくる・・・顔面にヒットしかけるが、瞬発力のある僕は間一髪でよけることができた。


「ふっ、甘いな」

「ならもう一発。テンチュウです!」


 辞書が左右両方から飛んでくるがこれもかがんでよけ・・・・・・

 二つの辞書がちょうど頭の上でぶつかり合いかがんだ僕のもとへ・・・・・・


「頭脳の勝利です」


 勝ち誇っとような彼女の姿に少し悔しさを感じるが今は辞書二冊分の痛さが頭から引かない。


「いつか仕返してやるから覚えとけよアホ幽霊」

「そのアホに頭脳で負けた楓はなんでしょうね?」


 無視して荒らされた部屋の片づけを始める。


「待ってください。無視しないでくださいよ」

「さあさあ片付け片付け」

『静かにしなさい』


 扉の外から母の声がする。少し朝から騒ぎすぎてしまったのがいけないようだ。

 そんな感じで僕の平穏な日曜日は過ぎ去っていった・・・・・・・

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