9.帰還記録
どっぷりと辺りが夕暮れに染まった頃、やっと僕達(幽霊を含む)は昼間のバスの停留所についた。
日が暮れそうだからと幽霊との会話もそこそこに迷いつつも、慌てて下りてきたのだが、僕達には計算外なことがあった。それは、田舎特有の異常に長いバスの待ち時間だ。
このままだと帰りは深夜になると先輩に言われ、両親に夕方には帰ると言い残して来たことを思い出す。
そうだ・・・・連絡をしないと・・・。
そう思いたち、携帯を開くが携帯の電波は相変わらず圏外のままで・・・。携帯を空に掲げてみても変わらず・・・。
そして、契約者数の多い赤文字のキャリアを使っているのに・・・。などと携帯を睨みながら心のなかで毒づいてみても状況はやはり変わらない。
そんなことをしていると、優香先輩に話しかけられる。
「楓くんの携帯も圏外?」
「みたいです。もしかして優香先輩の携帯も圏外ですか?」
「そうなんだよ。CMの白い犬に惹かれて変えたけど楓くん同様繋がらないのよね・・・・・・」
「朱里先輩の携帯はどうですか?」
期待を込めて朱里先輩に聞いてみるが、山奥だからなのか朱里先輩は首を横に振る。残るはチー先輩なのだが。この様子だとおそらく彼女の携帯も圏外だろう。
「お母さんにSMS打とー」
って、ええええええええ!?
チー先輩はおもむろに携帯電話を取り出し何かを打ち始める。チー先輩だけ繋がるなんてことあるの!?!?!?
そう思ったのは僕だけではなかったようで、優香先輩と朱里先輩もチー先輩の方を見て呆然としている。そりゃ、自分の携帯は圏外なのに一人だけ繋がるって状況なんだか悔しいよね。
「ねえ、チーちゃんあなたの携帯なんで繋がるの!?」
朱里先輩が負けた犬のような顔をして聞く。
「チーのは、みんなのと違うから・・・かな?」
と、首をかしげるチー先輩。村に入ってからというもの、本物の先輩と話す機会がなかったためか久しぶり(6時間)に見る先輩のそんなあざとい仕草と声に可愛いと思ってしまう。もちろんそのままでも可愛いけどね。あ、もちろん、朱里先輩も優香先輩も可愛いですよ。なにしろ皆さんは正真正銘の美少女ですから!
まあそんな話は置いておいて、チー先輩のは違うってどういう事だろう? まさか衛星電話とでもいうのだろうか?はたまた火星電話とかいう聞いたこともない未来のものだったりして。
チー先輩のことだ。きっと僕らに想像も出来ないようなモノなんだろう。でも、何を言われても僕は驚かないぞ!
「違うって具体的にはどんなのかしら?」
「私のは
『???』
その会話を聞いた一同の頭の上にはクエスチョンマークが浮かぶ。僕に至っては、チー先輩って、まさか、本物の大金持ちなのか!? なんて勘違いしかけたくらいだ。
「あ、金って元素記号のね」
と、チー先輩が付け加え、一同がキャリアのことを言っていたのだと理解する。諸事情で名前は言えないが。
彼女の分かりにくいようで的確な表現は聞くもの全員を理解に苦しめるが理解してしまえばなんてこともないな。なんかモヤモヤして想像通りスッキリする会話だな。
その後、僕たちはチー先輩に携帯を借り無事に連絡することが出来た。しかし、僕は母の様子から家に帰りたくなくなってきた・・・。
そういえば何か忘れているような気がして、周りを見る。セナだ! そうだ。セナの存在感がなさ過ぎてすっかり忘れていた。
僕は、先輩たちの提案する。
「自己紹介がまだなので皆でしませんか?」
「そうね、自己紹介忘れてたわね」
そうして以前のように朱里先輩から自己紹介が始まった。そして僕も自己紹介を終えた。次はセナの番だ。
「私はセナです。ごめんなさい。それ以外はわかりません」
セナには記憶がなく、自分の名前もさっきのチー先輩に憑依していた幽霊から聞いて知ったのだという。
「セナは自分の記憶を取り戻したい?」
「はい知りたいです。私は自分が成仏するべき存在だと思っています。幽霊になってからずっと過去について考えてきました。きっと知らないことが私の未練なんだと思っています」
見事彼女の映像と声が流れた。
最初は会話のときには彼女の言葉をありのまま僕が口で言うことで朱里先輩や優香先輩とコミュニケーションがとれるようにした。だが、この方法は少し面倒だ。そこでチー先輩が提案した心霊写真の要領で彼女を映せるはずという謎の理論が見事的中しそれを応用し、ならスマホのカメラでいけるかもということで挑戦してみたのだが見事成功したので、これからは、セナを移せば不自由なく会話できる。
「そういうことなら私達が協力をするわ」
「ありがとうございます」
「あたしはお父さんから村について聞き出してみる」
「じゃあチーは現地調査」
「私の過去を調べて欲しいと言ったところ申し訳ありませんが、もうあの村に近づかないほうがいいと思うのですよ」
「僕もセナの言うとおりだと思います。それにセナはこの村の人間ではないとあの幽霊が言っていましたし」
「そうね。私達はセナが何者であるのかをまずは調べるべきね」
なぜ、誰も気がつかないのだろう?セナの身元が特定できそうなモノが見えているのに。
「それならセナのその制服。どこのか調べませんか?」
そう提案した途端微妙な雰囲気になる。なにかまずいことを言ってしまったのだろうか?
「楓君、実はね、この制服私たちの高校の女子高時代のものなのよ」
「つまり58年前の話ね。あんまり有名じゃない話だけど昔記事を書くときに調べたから間違いない話よ」
それでは学校が嘘を言っていることになる。
「パンフレットには創立54年と書かれていましたが・・・」
「それはね、一度理由も曖昧なまま廃校になって2年後に共学化となって復活したの。ここまできいて私たちの学校の妙な点に気が付いた?」
まず、58年前女子校として創立した。そして54年前2年という短期間で共学化を果たして復活・・・
って、2年しか女子高はなかったということ?開校したばかりで卒業生も出していないのにいきなり廃校?
一見謎に見えるがその頃は戦争が終わった頃だ。つまりこうは解釈できないだろうか?
「もしかして、女子校としてスタートしたはいいものの共学化の需要があった。そこで計画的に廃校とし改めて共学校を設立したということではないんですか?」
僕の解釈が腑に落ちないのか朱里先輩は首を横に振る。しかし、これから三年間過ごす学校だ。なにかの偶然だと信じたい。だって自分の入学した高校がいわくつきなんて信じたくないじゃないか。
「なら、女子校であったという事実を隠していたのかという点はどう説明するの?」
朱里先輩にちょうど痛い点をつつかれる。
「それは・・・女子校であったというイメージより最初から共学校であったという方が聞こえがいいからではないですか?」
「それは暴論ね。楓君は女子校になにか変なイメージでもあるのかしら?」
確かに暴論だったかもしれない。朱里先輩にはセナがいるいじょう、以前になにかあったという根拠があるのだ。対して僕の論には何もあって欲しくないというだけで根拠がない。話を整理してみる。
「つまり、その女子校時代の何かを隠すために学校側は女子高時代をなかったことにしているということですか?」
「そういうことね。そしてセナは何かに巻き込まれた。私はそう考えているわ」
「失礼なことをお聞きしますが、もし女子校であったというのがデマであったなら?」
今の発言は彼女たちの調査や記事を否定しているのと同じだ。さすがに怒られると思ったのだが
「それはないわ。アルバムがあるもの」
「・・・・・・」
いっそ怒ってくれればよかったのに。現実を押し付けられたような気になる。
「楓君、ごめんね。でも私たちは新聞部なの。だから目をそらしたくてもそらせない。現実を直視するのよ」
「あんまり楓をいじめないであげて下さい」
いきなりセナが乱入してくる。だが、朱里先輩には見えない。
「ねえ、セナもう一回言って」
いや、これは嬉しかったからとかじゃない。単純に朱里先輩に聞かせるためだ。
「あんまり楓をいじめないであげて下さい」
もう一度言うのは恥ずかしかったのか顔を赤らめている。こっちまで言わせたみたいで恥ずかしくなってくる。確かに言わせたんだけど・・・でもなにか違う!!
「あなたも現実を見なさい。あなたを閉じ込めた犯人は学園長かもしれないわよ」
『え!?』
僕とセナは素で驚く。
「だって58年前から理事長変わってないわよ」
『え!?』
僕とセナは素で驚く。だってもうかなりの年齢じゃないか・・・・・・ていうか、入学式に来るのはは校長だから理事長知らなかったし。
朱里先輩の言っていることが本当に正しいのかもしれない。と、するとここにきたことも危険なのでは?
「みんなも薄々感づいているとは思うけど犯人候補に理事長がいるということはかなり危険よ。本物の新聞になるレベルのこと。だから学校では絶対に誰にも言わないこと」
・・・・・・深夜1時を回ったころ僕らは家に到着した・・・・・・
どうやら僕は幽霊=セナにとり憑かれてしまったようだ。そうして僕達のなくなった青春が戻ってきた。誰も味わえないような変わった形となって・・・・・・
次から本格的なラブコメが始まります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます