8.お還りなさい!
僕たちは少し離れた優香先輩とチー先輩(?)のもとへと到着した。僕はチー先輩(?)に話しかける。
「チー先輩、いえ、あなたは誰ですか?」
「私はチーよ。何を言ってるの?」
無表情で答える彼女。いつものチー先輩ならこんな質問をされたらなにかしらの表情を見せるはずだ。やはりこれはチー先輩ではない。
「いいえ、あなたはチー先輩ではありません。もう一度質問します。あなたは誰ですか?」
「あなたの知っているチー先輩です。先輩に対して失礼だと思わないのかい?」
彼女はいぜんとして無表情を保っている。
確信したところで幽霊に話を続ける。だが、この幽霊にチー先輩ではないと認めさせればなんとかなるかもしれない。そこで、アプローチを変えることした。
「失礼しました。いつものチー先輩なら、そのリュックの中にあるホットケーキを薄くしたような物を今頃食べているなと思いまして」
それを聞いた彼女は慌ててリュックの中を探し始める。そして彼女は昼間のアレをリュックから取り出した。
「その大好物を忘れていたんですか?」
まさか自分が被害にあった料理で助けるなんて皮肉なものだ。
「そんなことない。今は食べるときではないと思っていたのよ」
「今、それを食べるんですか?」
「もちろん。だって君はこれを食べてないから疑っていたんだよね? それなら喜んで食べるよ」
ここまで引き出し、僕は後ろを向き先輩たちの様子を見た。先輩たちも僕の思惑に気がついたのか、親指を立ててうなずいている。先輩に褒められたことで調子にのった僕は続ける。
「食べる前に聞いてください。その料理はチー先輩本人も公認するほど激まずです。本物のチー先輩だったら、絶対に食べようとしません」
それを聞いた瞬間、彼女は村に向かって走っていってしまった。この後、彼女がチー先輩ではないと認めたところで成仏するように説得する予定だったのだが、完全に狂ってしまった・・・。
さっきからずっと鳥居のところにいたから彼女が村の中に逃げてしまうのは予想していなかった。
待てよ、さっきの出来事を思い出す。彼女はさっき「みんなもう少しここにいようよ」といいながら駄々をこねていたのだ。彼女がチー先輩に憑りついていたのなら目的はみんなを村から返さないことなんじゃないか?
と、僕は彼女を見失わないように追いかけながら推察する。
僕たちはまんまと彼女の思惑通りに動いているわけだ。しかし、チー先輩を取り返すには相手の策略にものらなければいけない。そんなことを考えていると
「止まってください!」
いきなり上のほうから声が聞こえてくる。その声にチー先輩の体は反応したのかピタっと止まる。
ちなみにこの声は僕の声でもなければ先輩方の声でもない。では、この声は誰?
今度は一緒に追いかけていた先輩にも聞こえたようで、一緒に声の聞こえた場所見る。
そこにはどこかで見たことのある少女が民家だったであろう廃屋の屋根の上に腕組みをしながら立っていた。そして気づく。
「あ......さっきの骨!!」
今度は幽霊を見た恐怖で意識を失わないように冗談っぽく言ってみる。いや、ぜんぜん冗談になってないけど。
「骨なんかじゃないです。私は幽霊です!」
「じゃあ、白骨遺体」
「じゃあ、白骨遺体ってなんですか!? 幽霊だって言ってるじゃないですか! 失礼ですね。でも、先程は助けていただきありがとうございました」
一生懸命自分が幽霊であると主張している姿に全く恐怖を感じなくなったどころかむしろ可愛らしささえおぼえる。しかも、一言でめっちゃメッセージつまってるし。
「えふんっ、そこの幽霊。生者の体を返してあげてください」
自称幽霊はわざとらしく咳払いをしてからチー先輩の体を乗っ取っているであろう幽霊に警告してくれる。
「セナ様!?なぜここに・・・」
チー先輩ではない、なにかがチー先輩の顔でゲという顔をしながら驚いて見ている。
「そんなことよりも体を返してあげてください」
「でもせっかく現れた聖者。もう一度この村で生活してほしいと思うものだろう」
セナとは自称幽霊のことのようだ。それにしてもチー先輩に取り憑いてる幽霊、様つけるなら敬語使えよ・・・。
「考えてください。この環境で生者が生活できると思うのですか?」
「セナ様は外部の人間だからそう思うのは当然。だけど私はこの村をもう一度人が住む場所にしたい」
「その気持はわかりますが生者を巻き込むのは間違っています」
「セナ様は昔からちっとも変わってませんね」
そんな感じでよくわからい話を眼前で繰り広げられ、朱里先輩と優香先輩は呆れ顔で見守っていた。もう、怖さなんて微塵も感じていないのだろう。
しばらく幽霊二人の論争は続き、結局セナと呼ばれた幽霊が勝利した。
そして、チー先輩が無事にかえってきた。
僕たちはセナにお礼を言う。
そして、最後にふと思いついたことをセナに聞いてみる
「もしかして僕を地下から本殿に移動させてくれたのってセナ?」
「あなたが失礼なことに私を見て倒れるものですから。念力でちょちょっと。枷を外してくれたお礼としてですよ?」
えへんと、胸を張る幽霊。朱里先輩より少し大きいな。
「じゃあ今回助けてくれたのは?」
「それは貸しを作るためです」
「それなのに僕たちは借りを返さずに帰っちゃっていいの?」
「それは・・・。あなた達を見てたら楽しそうだなと思えたから守ってあげたいと思ったのですよ!」
最初からそういえばいいのに、セナは照れながら答える。可愛いヤツだな。
「それなら私達につい来る気はないかしら」
先程から存在感皆無だった朱里先輩が提案する。とんでもすぎる提案だが変人のリーダーである朱里先輩ならいいかねない・・・、ってか言ったし。確かに、この幽霊は味方だろう。しかし、こんなハッキリと見える幽霊、一体なんなの?
「そうだね。チーちゃんを助けてくれたし部活に幽霊って面白いかもしれないね」
「チーもこの幽霊さんにまだなにもお礼できてないし」
第二新聞部のメンバーは幽霊を仲間にしてしまうほど、よく言うとお人好しで、悪くいうと変人の集まりであるといえる。
だからこんなメンバーが僕は好きだし僕もおそらく変人だからこのメンバーと楽しくやっていけるのかもしれない。
仲間が加わり、僕たちは村を出ようと鳥居を潜る。次の瞬間、朱里先輩と優香先輩がセナが見えないと言い出す。僕の隣には先ほどと変わらずセナがいる。チー先輩にも見えているようだ。これはどういうことだろう?
******幽霊の基本情報***********************
名前・・・セナ その他情報・・・霊長類、骨化、霊。
備考
生前の記憶がないらしい。
現実のものに触れることができないがある程度のものなら念力で動かせるらしい。
ちなみに、彼女の廃村から出るとある条件を満たした者にしか見られなくなる
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