6.この村は一体・・・?

「・・・くん、・・でくん、・えでくん、楓くん」


 誰かが僕を呼ぶ声がする。聞き覚えのある声。でも、思い出せない。誰だっけ?


 そして、なんだかシャンプーのようないい匂いもする。ん? この匂いどこかで・・・。

 驚いて起き上がる。瞬間、朱里先輩のおでことぶつかり鈍い痛みが広がる。

 どうやらさっきまで寝てたのは朱里先輩の膝の上のようで・・・・・・。

 なんだか、とても羨む人が出てきそうなシチュエーションであるが、同時に先程のことをフラッシュバックのように思い出し、我に返る。


「イタタタ・・・突然立ち上がったら危ないじゃない・・・そ、そのき、キスとかしちゃうかもだし・・・」


 ぶつかった衝撃からか彼女はおでこをおさえながら顔を赤らめ、朱里先輩らしからぬ変なことを言い出す。そんな彼女を見て僕から恐怖が吹き飛んだのが分かった。


「ごめんなさい。大丈夫ですか?」


 そのおかげか、朱里先輩の前で一番といえるほどに冷静に返せた。


「大丈夫よ。楓くんこそ大丈夫? 」


 こちらが気恥ずかしくなるほど、心配そうに顔を覗き込んでくる。

 ここで、疑問に思うことがある。さっきのアレは僕の夢だったのだろうか?

 直接聞くのも気がひけるのでとっさに思い浮かんだ皮肉を言ってみる。


「はい、骨になっていないようなので大丈夫そうです」

「骨・・・?まあ、楓くんが無事でよかったわ」


 朱里先輩はあざとく首をかしげている。どうやら、骨を見ていないようだ。もし、さっきのフラッシュバックが現実なら、僕を救出するときに確実に骨が視界に入るはずだ。やはり、夢だったのかもしれない。そこで、夢と確実に証明できるように、最後に確認する。


「そういえばチー先輩と優香先輩はどこにいるんですか?」

「そこに優香とチーちゃんがいるわよ」


 朱里先輩は流し目でとても悲しそうに左を見る。

 今度こそやっと把握した。ここは、廃村の前の小綺麗な鳥居の前だ。

 左を見ると、その鳥居のこちら側から必死に向こう側にいる、チー先輩の腕を引っ張っている優香先輩がいる。


「あれは、何をしているんですか?」

「説得よ。チーちゃん、人が変わったようにおかしくなって、あの鳥居をくぐろうとしないのよ」


 鳥居の向こうでチー先輩は、「もう少しここにいようよ」と駄々っ子のように叫んでいる。それを、優香先輩が体を張って、一生懸命説得をしてるところだった。

 どこからが夢なのか分からないが、記憶を遡り考えてみると、鳥居を潜ってから変な行動をとっていたチー先輩はやはりなにかに取り憑かれているような気がする。

 何があったのかは、隣りにいる朱里先輩に聞いたほうが早そうだ。

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