4.シガラミムラのふしぎ

 意を決し鳥居をくぐる。

 鳥居を潜ると世界が変わるなんて、聞いたことがあるが、なんだか空気が一気に変わった気がする。風の音、水の流れる音。自然の音がより聞こえるようになる。


「キャーーーーーーーーーーー」


 足を踏み入れて数秒。なんだか、幻聴のような・・・。けれどそれは、確かに誰かの叫び声のような・・・。

もちろん目の前にいる朱里先輩、優香先輩、チー先輩は叫んでいない。とすると、やはり幻聴なのか?


 怖くなってきた僕は必死に声を絞り出し聞く。


「今・・・何か・・・声がきこえません・・・・でした・・・か?」


 やっとのことで声を出しこの場の先輩に聞いてみるが


「え、何か聞こえた?」

「あたしにもなにも・・・」

「自分には聞こえたよ。何か事件が起きているのかもしれない。助けなきゃ」


 チー先輩はそういって声のした方に走って行ってしまう。


「チーちゃん、待ちなさい・・・・・・」


 朱里先輩が引き留めようと声をかけるが、チー先輩は止まることなく村の奥の方へと走って行ってしまう。


「この場所で、単独行動は危険よ。二人とも、絶対離れないで! チーちゃんを追いかけるわよ」


 道が入り組んでいるせいで、すぐに追いかけたのだが見失ってしまった。


「見て!左側の道草が少し潰れてるよ。多分左へ行ったんじゃないかな?」

「本当ね。チーちゃんのハンカチも落ちていたわ。優香の言うように左へ行ったのかもしれないわね。行きましょう」

「あ、こっちにはチーちゃんの携帯が落ちてる」

「どうやら自分の通った道をマークしているようね」


 優香先輩と朱里先輩は手掛かりを見つけ追いかけているが、何か引っかかる・・・。

 そういえば、さっきの声、本当にあれは人の声だったのだろうか?怯えていたから家屋に風が通り抜けた音を悲鳴と勘違いしたのではないか?

 走っていたせいか心に余裕ができ、冷静に考えられるようになってくる。

 さらに思い返して見ると一人おかしな発言をした人物がいた。

 それは僕が『今・・・何か・・・声がきこえません・・・・でした・・・か?』と聞いたときの返事だ。


『え、何か聞こえた?』と朱里先輩が言い。

『あたしにもなにも・・・』と優香先輩が言う。

『自分には聞こえたよ。何か事件が起きているのかもしれない。助けなきゃ』とチー先輩が言った。


 今、考えてみるとあの人は二度おかしなことを言った。

 まず、自分という一人称だが普段チー先輩は自分のことをあだ名で呼んでいたはずだ。

 その次に『助けなきゃ』という発言。なぜ廃村でしかもこんな人が来たような痕跡のないようなところでいきなりそんなことが言える? そして、なぜすんなりその場所に向かいさらにはわかりやすく自分の通った道を示しているのだ?

 さすがに彼女の全ての行動を疑うのも変な気がするが、疑いだすと全てが怪しく感じてきてしまう。

 そして、この村に連れてきたのはチー先輩ではなく、おかしな行動は鳥居をくぐった後からという事実。


 これらを繋げると・・・・・・恐ろしい想像が脳裏をよぎる


「朱里先輩、優香先輩、チー先輩がピンチかもしれません」


 二人は僕が何を言ったのか分からない様子だが、なんだかやばい気がする。

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