3.シガラミムラ取材記録
ついにこの日が来てしまった・・・。
恐ろしい朝が来た。希望のない朝だ。苦しみに胸ひしがれ青空を仰ぐ。
家を出る30分前に起きたはずなのだが、準備段階で既に40分が経過しようとしている。
つまり、遅刻の確定である。しかし、楓は慣れている。遅刻のプロフェッショナルなのだ。実は、入学式早々遅れてきた勇者でもある。式中に堂々と入場する姿は、生徒たちの目だけでなく、親たちの目も釘付けにしたほどだ。
しかし、気にしないのがこの男、楓である。
「すみません。遅れてしまって」
しおらしく駅前にかけつけるその姿は、まさしく可愛い後輩そのものである。しかし、楓は知っている。自分がどうすれば可愛がられるのかを。
「いいよー。楓くん可愛いから許す」
「チーもいま来たところだから謝らなくていいよ」
「遅刻はちょっと減点ね。加点になるほどの素晴らしい活躍を期待してるわ」
なにかトクダネを掴めみたいなノリやめてもらえないでしょうか...?
「元気をだして! 私たちは怒ってるわけじゃないわ」
「話してても時間が勿体無いわ。優香案内して」
朱里先輩が仕切る。電車を3本乗り継ぎ、バスに1時間ほど揺られた。これで到着するかとおもいきや、今度は山道を歩くのだそうだ。熊にでも遭遇しそうで怖い。ていうか、お腹空いた。
そんなことを思っていると、チー先輩が神的提案をしてくれる。
「そろそろ12時になるし休憩しよー?」
「そうね。少し早いけどその方がよさそうね」
バスから降りるとのどかな田園風景が広がっている。周囲にマッチする昭和のような待合室があったのでそこでお昼を食べることにした。
ひぐらしが鳴いており、語尾になのですとですわを多様する2人の幼女がいるのかもしれないと、期待が膨らみ周囲を見渡す。
しかし、そんな2人はいないどころか、不純な考えで祟りにあってしまいそうだ。
「見て見て!今日は皆で食べるためにこんなもの作ってきたの」
そういってチー先輩はリュックからホットケーキを極限まで薄くしたような何かを出す。しかし、さっきまで話してた先輩二人は、さりげなくそっぽを向いた気がする。
僕は、チー先輩とばっちり目が合っちゃたので、なにか喋らない訳にはいかず、あからさまな地雷を踏むことにした。
「これ、なんですか?」
「うーん・・・わからない。朝起きてありあわせの材料で作ってみたものだから」
うーん。質問したこっちの方がわからないなぁ。
朱里先輩と優香先輩はというと、なにやら小さい声で話をしている。そしてお互いうなずき合ったあと
「では、集合が遅かった順に食べましょう」
朱里先輩が謎に仕切る。想像ついてた展開だなぁ。けれど、ラブコメの主人公っぽいしいっかと気を取り直す。
「シェフも驚く天にも昇るような味だよ!」
優香先輩も付け加える。覚悟を決めるしかないのか・・・。意外と美味しいパターンだよね!?
・・・・・・ガリッ・・・・・・ん?
口に広がるものすごく不快な酸味。そこにものすごく不快な甘さがやってくる。そして口に残る変な風味としょっぱさ。飲み込もうとしても体が拒否をする。
こんなに詳細な食レポができるなんて、もしかして向いてるのではないだろうかとお花畑を咲かせたのも束の間。
僕はダッシュでバス停の待合室の裏に隠れそれを吐き出した。無性にお茶が欲しい・・・。
休憩所に戻ると、今度は上目遣いで真っ先にチー先輩に聞かれる。
「味はどうだった?」
「天にも昇るような味でしたよ」
「生きててよかった!」
会話が噛み合わん。これって僕がおかしいのか? いや、絶対チー先輩がずらしてる。僕を殺そうとでもしていたのだろうか?
しかし周りはなぜかお祭りムードである。
「やったじゃんチー!やっと人が倒れないくらいの食べられる料理を作れるようになったんだね!」
「うん!優香ちゃんと朱里ちゃんが今まで犠牲になってくれたおかげだよ」
いやいや。あんなの飲み込んだら多分倒れてたよ!? 成し遂げたみたいな空気やめよ!?
「チーちゃんの料理が成功したみたいなので皆で試食しましょう。楓君、命拾いした・・・・・・」
朱里先輩がその何かを口に入れた瞬間。直後、先輩の顔が青くなり、倒れた。なぜ自分から食べたのか不思議でならない。
「楓くん、まずい料理に強かったんだね。よくあんなの食べて無事だったね」
料理のようなものを作ってた本人の前で優香先輩はボロクソ言う。それを聞いた張本人は
「楓君、食べさせてごめんね。お母さんとか料理下手なの?」
謝ってるのか、母を貶しているのかどちらかにして欲しいものだ。何をしたかったのか?
「母の料理とは比較にならないですね」
「でも楓君食べても平気だったよね?」
まるで、捨て犬のような表情で自己正当を主張しようとする。
「まあ・・・。人肉を食べてるから慣れたんでしょうかね? あれはまずいですよ」
チー先輩は、固まった。本気で信じているなんて。思わず顔がにやける
「ふぇぇええ・・・!? こ、今度はチーを食べるつもり!?」
「あたしも人肉食べたことあるよ」
「確か・・・。私も食べたわね。チーちゃんが食べないのがおかしいのではないかしら?」
僕に続き、優香先輩、朱里先輩といじっていく。こんなこと信じる純粋な子いたんだなぁ。ちょっと萌えてきた!!
さすがに可哀想になってきたのか、優香先輩がチー先輩に優しくさとす。
そんな温かい時間も長くは続かず・・・。
僕たちは優香先輩の指示で山道を歩き始めた。そろそろ1時間程になるだろうか? 道に迷ったようだ。
獣道を登ってきたせいか周りはもうそこは道ではなく、僕たちは木に囲まれていた。
周囲からはカラスの鳴き声や、風の音しか聞こえない。みんなも疲れて黙りこくっている。
「見て!何かある」
その沈黙を破ったのは、道に迷った優香先輩だ。そして僕たちはまるで希望を見つけたかのようにペースをあげる。
どうやら、看板のようで、年期の入り方といったらない。
サビで見にくくなっているがかろうじて何か書いてあるのか読み取れた。
『この先柵村。近寄るべからず 1970年12月31日』
「赤軍が潜伏してそー」
言ったのはチー先輩だ。確かに、時代的にも潜伏箇所としても申し分なさそうだが、あえてタブーに触れてくるこのスタイルはどうなのだろう?
それよりも、僕には「柵」という文字が気になって仕方がなかった。
「
僕と同じことを考えていたのか、朱里先輩が口に出す。僕達の学校と同じ名前。距離的にもかなり離れているのだから、おそらく偶然だとは思うがあまりいい気はしない。
「ほら、やっぱりだ。チー、朱里」
そういいながら、優香先輩は、先程までといは違い元気になっている。それは、親の故郷を見つけたからだと思っておきたい。
あれ? 朱里先輩も、先程の疲れきった顔ではなく、今は喜々とした表情を浮かべている。
チー先輩は・・・。無表情。この人何考えてるんだ?
それにしても、これ不法侵入とかにならないのだろうか? 今更だが、あまり気が進まない。
奥を見ると、村の入り口なのか、真っ赤で綺麗な鳥居が見えた。
『っ・・・・・・・・・』
それを目の当たりにした僕たちは、言葉を失う。それは、美しいとかそういうことではない。
看板があれだけ廃れていたにも関わらず、ここだけが綺麗というのは、さすがに違和感を感じたのだ。
僕はそこを通ることにどうしても気が進まなかった。
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