2.第二新聞部活動記録
願ったとおり、刻は止まったままなのか、僕らはまだ手を繋いだままだ。先輩はいまだに怪訝な目で僕を見ている。とても気まずい。
いや、待てよ。これは、僕が一種の魔法をかけたといえるのでないだろうか?
ほら、だって刻は止まってるし・・・・・・。
先輩が口を開いたら終わりだ。僕がこの学校に入学した理由が美少女と恋愛をしたかったなんて安直な理由がバレてしまうかもしれない。
知ってるだろうか? 目からの情報が人間の8割を左右するらしい。つまり、この状況は、8割を見透かされていることになるのだ。
長い間、沈黙が続いている。あ、そうだ。僕が刻の魔法を解かないといけないんだ!! 考えが一周回ってよくわからないことになってきたが、この状況を打破するほかないだろう。
「突起よ止まれって思うときないですか? 僕、寒くて乳首がたっちゃって・・・」
あ。やったわ、これ。その瞬間、確信した。どうやら、僕は人生初のセクハラができたようだ。それも、美少女に。おそるおそる、彼女の表情を見てみる。
あ、今ニコって笑った! めっちゃ可愛い。
「私もたったわ。男の子のもたつのね。えへへ・・・。かわいい」
このニコニコはもしかして・・・。お姉さん変態ですね!?
「大変申し訳ありませんでした」
「謝ることじゃないと思うわ。生理現象って奥が深くて私、好きよ」
戸惑いつつも平静を装う彼女の顔の美しさといったら・・・。そうか、世間でセクハラがあるのも、この表情を見たいからなんだね!←※違います
「きっと疲れたのね。あ、そうだ。少し休んで行きなさい」
「どこでですか!?」
「あら、気になるのかしら?」
今度は妖艶な笑みで返される。まさか!? 全国の男性ドキドキ、密室で・・・。セクハラOKで、2人でお休みって! 期待してもいいよね!?
うなずく前に、彼女は躊躇いなく目の前のドアを開けた。
「みんな注目!彼が入部希望者よ」
・・・ハメられた。
この美少女、部活動勧誘をしていたのだ。確かに彼女も先輩の立場としてあの場にいたのだから、目的は部活動の勧誘の可能性が高い。それに気づけなかった僕はなんて愚かだったのだろう・・・。
「あ、そこの椅子に座って」
彼女に満面の笑顔で指示される。そんな顔で指示されたら、身体は拒否できない。見ると、すでに2人同じように腰かけていた。
部室は教室を横長に半分にしたような大きさで、収納棚のようなものには新聞などが乱雑に積み上げられ、ドアの前にある大きな丸い机の上にはこれまた乱雑に資料が広げられている。その奥には本棚で半分に区切られたスペースがあり、左側にはパソコンが。右側には中央の机にあったような資料がおさめられ、高そうなカメラ等が置かれている。決してきれいとはいえないような部室だが、始めてきたのになんだか自分の部屋のような安心感がある。あるけど・・・。そこじゃないんだよなぁ。
「さて、自己紹介から始めましょう。まずは私、第二新聞部の部長をやっている2年の
いきなりですか。って、ん?第二新聞部って・・・一体いくつ新聞部があるんだ? 僕、ツッコミが追いつけません。
「次はあたしだね! 2年の副部長の
朱里先輩と違い、髪はセミロングで背が高くスタイルもいい。活発な印象を与えるこれまた美少女だ。
「次はチーの番だよね。えっと、
背は低めで、朱里先輩のように控えめな体系だが、声が可愛い。例えるなら彼女はアニメの世界から出てきたようなめっちゃ可愛い声してる! なんか、いきなり発言が変な気がするけど。独特な感じもまたいい!!
きたこれ、全員美少女。ハーレムきたよね!?
「これで一通り部員の方は自己紹介が済んだから、あなたの自己紹介をお願いできるかしら?」
「え、は、はい。1年の
しかしここで、心の中は雄弁な僕が、才能である、コミュ障を開花する。
厨二発言にとどまらずセクハラ、陰キャ度、すべてが露わになってしまった。
しかし、先輩たちは気にせず『わー』とよくわからない反応をしてくれているのが救いだろうか。そして、朱里先輩、優香先輩、チー先輩が言う。
「楓君? その名前あなたによく似合ってるわね」
「確かに! 楓君可愛い顔してるし!」
「チーは楓って響きが好きー」
先輩方に言いたい放題言われてなんて反応していいのかわからない・・・。
言葉を探していると、いきなり部室の扉が乱雑に開く。
「おい! 第二新聞部の部長出てこい」
荒々しく入ってきたのはさっきの”肉だるま”だ。再登場が予想より早いことに驚きだ。
相手の体格は小柄な先輩方とは違い、体格からして威厳を感じる。しかし、朱里先輩は、喧嘩腰で入ってきた、そんな相手に臆することなく先ほど同様に反応する。
「すでに既知かとは思いますが、私が部長です。それよりも、第一新聞部はノックも出来ないのですか? 話し合いにならないのでそちらの部長を呼んできてください」
こういう煽っていく姿勢好き。多分、この2人、いや新聞部同士が仲良くないのだろう。だって、第一と第二にわかれてるってそういうことだよね・・・。
「俺がその部長だよ。知らないわけ無いだろ」
相手は、力こぶを見せてさらに威嚇する。まるで動物だ。
で、朱里先輩はクスっと馬鹿にしたような笑みを漏らす。
「ああ、そうでしたね、失礼しました。で、その部長さんが何をしに来たのですか?」
「お前らまたウチの新聞記事パクったよな?」
「パクったとは、どのようないいがかりですか?」
「いいがかり!? こんなの王手と一緒だろ」
そういって、筋肉のお兄さんは、顔を真っ赤にしながら、なにやら証拠っぽいものを朱里先輩につきつけている。ついでに、筋肉もぷるぷる震えている。
「まるで、将棋ですね」
当の朱里亜先輩は、どこかで聞いたことのあるアホそうなセリフと類するものを口走って、笑いをこらえておられるご様子だ。完全に煽ってる。
「ああん?」
やばい、やばい。なんか完全に怒っちゃってるよ!? どうか、僕に火の粉が飛んできませんように・・・。
次の瞬間、第一新聞部の部長らしきマッスルから朱里先輩に向けてパンチが飛んだ。しかし、朱里先輩は瞬時にドアを閉める。バコンと、物凄い音が辺りに響く。
あれを食らってたら大変なことだな・・・。
直後、朱里先輩は、ドアを開ける。
「今度の記事は、”第一新聞部暴行事件”について書こうかしら」
もうやめてください・・・。今の今で再度煽るとか、ふざけてるにも程があるよね!?
不敵な笑みを浮かべながら、朱里先輩が部室のドアを閉める。
2人の先輩の様子はというと、優香先輩はもう慣れっこなのか本を読んでいるし、チー先輩に至っては爆笑していた。
さすがに我に返ったのか、朱里先輩は背中を丸めて白々しく、ホワイトボードの前に立つ。
「そ、それでは第一新聞部に殴られる前に次回の記事を変更しましょう」
第一新聞部のドアパンチが効いていたようだ。先ほどまでと違いたどたどしい。思わずギャップ萌えをしてしまいそうだ。
とか思ってる間に、朱里先輩がホワイトボードに『今後の記事』と見出しを書いている。
そして、さっきのことがまるでなかったかのように「はい!」とかわいい声で手を挙げるチー先輩。
「えっと部活動インタビューはどうかな?」
「却下。そんなことをしたら他の部活に一年生が流れ込んでしまうでしょう?」
なんて邪な・・・。せっかく出したアイデアを朱里先輩に否定されシュンと、うな垂れるチー先輩。
そして今度は唐突に立ち上がる優香先輩。
「物語を載せるのはどうかな?」
果たしてそれが新聞として成り立つのか素人にはよくわからないのだが。
「却下。そんなのただの小説掲示じゃないの」
「まって朱里。でも、もしそれがBL小説だったとしたら?」
もうすっかり、さっきまでの朱里先輩に戻っていて、凛々しい表情で顎に手を当てている。仕事ができる女といった感じだ。
「新聞の四コマ漫画のように、端にちょっとずつ掲載していくならありね」
あれ? さっきの訂正。私情に思いっきり流されるのね・・・。あからさまにBLに食いついてるよ。
さらに、誰がそのBL小説を書くんだよって突っ込みを入れたいところだけど、この中になら本当に書く人がいそうなのでスルーを決め込むことにする。
「じゃあ、部活動紹介をBL風に書くっていういのは?」
BLという言葉を入れればいけると思ったのか、チー先輩は意味の分からないことを言い出す。ていうか言い出した本人笑ってるし。
「え?」
「は?」
その場の空気が凍り付いた。彼女の発言が謎すぎる。
「ごめんなさい」
チー先輩の一言で、何こいつみたいな顔をしていた二人が笑い出す。僕からすると「?」だが・・・。まあ、ツボは本人達にしか分からないのだろう。
「楓君は何か案ない?」
朱里先輩にいきなり話を振られ、僕はとっさに壁に貼ってあった新聞記事からヒントを探す。
「学校にはあんあまり関係ないかもしれませんが、幽霊は存在するのか調べるのはどうですか?」
『面白そう!』
その場にいた3人の先輩方がハモる。提案をしておいてではあるが僕は自分のその提案に全く魅力を感じない。だって、取材とかするんでしょ?
「あ、それならあたしのお父さんの出身地今は廃村になってるらしいんだけどそこならゆっくり幽霊とか探索できるかも」
ほら。優香先輩もう取材する気満々じゃん・・・。
「廃村探索。確かに面白い試みかもしれないわね」
「優香ちゃんのお父さんに許可とらないといけないね」
普通、こういうのを怖がると思うのだがこの人達が平気なのはなんでなのだろう?提案した僕が怖いくらいだ。
「でもね、お父さんは多分許可してくれないと思うな。昔からお父さんはその村に行ってはいけないとか言ってたから」
「なんか余計に気になるね」
チー先輩はめちゃくちゃ興味を示している。ていうか、絶対やばいでしょそこ。本当に行くの!?
「ちなみに場所はだいたいわかるよ」
「どうする?新聞の記事、BL掲示と廃村探索にする?」
部長らしく朱里先輩がまとめるがなにか変な小説を掲載しようとしているようだ。しかし否定されることはなく何故か全会一致で賛成だった。嬉しそうに、弾んだ声で朱里先輩は続ける。
「それじゃあ、取材の日程を決めましょう」
それからとんとん拍子に日程が決まっていき、僕は先輩たちに「名前覚えたからね?」と、半ば脅しのように圧力をかけられ、行かざるをえなくなった。そんなことされなくても、行くんだけどね。信用がないなぁ・・・。
こうして、僕はあの事件に巻き込まれた。
-3話以降はプロットのないまま書いた、初期版のまま未更新のため、非常に読みにくくなっています。10/12までに改修する予定です-
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