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「エクス君、朗報ですよ!」
いつも通り訓練と勉強を続けていたある日、ダール学会員がいきなりそんな事を言いだした。
何事かと渡された書類を見てみると、僅かだが身体に変化が出ていた。
つまりは、少しだけ身体を鍛える事に成功したのだ。
「凄く時間はかかるけど、無駄じゃないって事か?」
「ええ、通常の方法でも何かしら出来る事が判明しただけでも興味深い結果と言えます、やはりあれでしょうか、痛めつけられすぎて身体の治癒能力でも上がったのかもしれませんね」
「でもこれで、通常の異形とはまた違うって事にならないか?」
「通常の異形とはそもそもなんですかって話にもなりますが、そうですね、成長の可能性がある異形ですから新発見なのか、それともやはりヒトだったのか、この結果でやはり君はヒトだったという結果になるのが良いのですが、こればかりは私の願望ですね」
「ダール、俺の安全性とやらはどうだろうか?」
「そうですねー……、それは――」
ダール学会員が何か言いかけた瞬間、施設の警報が鳴り響いた。
「おや、緊急事態ですか?」
「俺はこういうの詳しくない、マキナに聞いてくる」
「私も行きましょう」
講義室に向かう途中だったので、そのまま講義室に。
中に入れば、候補生の三人と、マキナの姿が見えた。
「来ましたね」
「俺は何か、する事はあるのか?」
「今回は統括区に侵入者が現れたとの事です、現在鎮圧中により皆さんはここで待機ですので、特にやる事はありませんが万が一に備えていつでも動けるようにしておいてください」
「マキナ教官、私もここで待機かな?」
「ええ、ダールさんはお守りする必要はないかもしれませんが、ここで待機を」
「わかりました」
このヒト、研究とかだけじゃなくて戦う事も出来るのかと驚きつつ、俺達は待機する事になった。
妙な緊張感の中、ダール学会員とマキナは外の情報を集めている。
「おや、
「区画の内側ですから、大型火器のリミッターはそのままですが、アレなら直ぐに……、とはいかないようですね」
「単独で倒しちゃいましたか、リミッターがあるとはいえ、倒せたという事は手練れでしょう、映像あります?」
「ありますね……、ああ、随分懐かしいのが出てきましたね」
俺達候補生には見せてもらえないが、表情の見えない二人は今にも溜息をはきそうだった。
なんとなくだが、呆れているように見える。
「サイレンス、生きていたんですね」
「彼女がまだ雇われなら、統括区に何か運び込まれて、それの奪取に来たという所でしょうか?」
「シティガードの区画を潰すには戦力が足りないのはいつもの事、しかし、最近彼女に狙われるような重要物資は運び込まれて……、もしや?」
「エクス君、彼女に見覚えありますか?」
そう言ってダールが見せてくれた映像には、オウカが映っていた。
映像にはあの大きな機械を圧倒して悠然と立っていた、相変わらずの様だ。
「オウカじゃないか」
「知り合いだったのですか?」
「保護者だ」
「……狙いはエクス候補生ですね、警戒解除要請を」
マキナは警戒解除要請をシャロンに伝えていた、その際に『また彼女です』と付け加えている。
要請はあっさりと受理され、襲撃など無かったかのように静かになっていく。
彼女が何かを壊したり、襲撃するのは慣れていると他の候補生は言っていた、どうやら気分で襲えるほど強かったらしい。
オウカと会うのは、久々だな。
……
候補生は離れていく中、俺は、当然だが講義室に残された。
ダール学会員はオウカと知り合いらしく、なんだか楽しそうであった。
シャロンに案内され講義室内に入ってきたオウカは、真っ先に俺に飛びついてきた。
「よかった、無事ね」
「久しぶり、オウカ」
「いきなり出ていったと聞かされた時は驚いたわ、でも平気そうね」
「なんとかなってる、ここのヒト達のおかげだ」
先ほど戦闘していたとは思えない程、オウカは普段通りだった。
抱きしめられていると、屋敷ではよく抱き枕にされていた事が懐かしくなるな。
「お久しぶりですね、サイレンス」
「え、ダールしゃない、珍しいわね」
「エクス君の講師やっているんですよ、それと身体の事を調べさせてもらってます、本人の要望でもありますし」
「ここに学会の設備程のモノ、あるの?」
「ないですよ、ですので何時かは第五にエクス君を連れて行く予定です、たまには君も墓所に顔を出してみては? 多分エクス君、墓所に世話になりますよ」
「なんで」
「本人が強くなりたいというのです、異形を鍛えるとなれば、ね」
「エクス、ホントに強くなりたいの?」
オウカは俺を覗き込みながら問い詰めてくるので、先生に話したように、目的を話していた。
自分が何者なのかハッキリさせたいと。
「それでここで検査と訓練か、納得」
「しかしオウカ、よく此処にエクスがいるとわかったな」
「これでも時間が掛かったわよ、シャロンも仕事してる証拠よね、ヴァルタの仕事しなきゃ教えてもらえなかったわ」
「……相変わらず顔が広いな、お前」
「悪魔の友人やってるとね、シャロンのところにも来たんじゃないの? あのクズ悪魔」
「アンウェルか、来てないぞ」
「そう……、う~ん、エクスがダールやシャロンの元に居るならまだ安心できるけど、エクスはどうしたい?」
「出来ればここで勉強と訓練を続けたい」
「わかったわ、じゃあアレ持ってるでしょ、端末貸して」
携帯端末をオウカに渡すと、何かを接続していた。
機械の事は複雑なので、オウカが何をしているのかよくわかっていない。
「よし、これで連絡出来るようにしたから、逃げたくなったら何時でも言いなさいよ」
「わかった」
「……今度からは私に連絡を寄越せ、手続きが面倒だからとまた機獣を壊しながら入ってこられても困る」
「え~、シャロンって連絡先教えてくれないじゃない」
「エクスがいるから今回は教えてやる、だから暇つぶしに呼んだりするなよ、いいな?」
「はいはい」
シャロンとオウカは昔からの知り合いらしい。
普段見るシャロンの表情とは違い、なんだか素が出ているような感じがしていた。
「オウカ、用が済んだのなら出ていきなさい」
「うわっ、相変わらずねマキナちゃん」
「馴れ馴れしく呼ばないように、今決着をつけてもいいのですよ?」
「マキナちゃんの相手は疲れるからしたくないわよ、はいはい帰りますって……、エクス、またね」
「その前にオウカ、先生は何か言ってたりしただろうか?」
「ああ、先生ならいつでも帰ってこれるなら帰ってきなさいだって、私も帰ってきてほしいけどね」
「……また家事してないな、掃除はちゃんとするんだ、オウカ」
「ま、その内ね」
そう言って、オウカはシャロンと出て行ってしまった。
嵐が過ぎ去ったというのか、一気に静かになる。
「さて、今日も勉強しますか」
「ああ、今日もよろしく頼む……、それとダール、良ければオウカとの事も教えて欲しい」
「それはまた今度にしましょう、第五に行くときは彼女にも着いてきてもらってその時に、という事で」
「そうか、わかった」
オウカの言っていた『ヴァルタ』
ダール学会員が言っていた『サイレンス』
身近なヒトでも知らない事はまだまだあるらしい。
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