pp.10
ダール学会員を紹介された後は、俺だけ講義室に残されていた。
この男か女かわからない学会員はこの間のデータは閲覧済みなのか、俺の事はもう知っていると言わんばかりに強引に握手をしてきた。
「よろしくね、エクス君!」
「あ、ああ、よろしく……」
俺、マキナ、学会員が向き合う様に座り、俺の今後について話し合われる事になった。
まずは俺が危険なのかという事。
このまま統括区、第四世界に居てもいいのかという事だった。
「問題ないとは言い切れませんが、今のところは目の届くところに居てもらいながら経過観察していきましょう、安全性のチェック完了次第、外へ」
「あ、安全性のチェック?」
「そうです、第四世界も危険な世界ですからね、明日命を失ってしまう事など容易い、エクス君が死んでしまった場合どうなるのか未知数ですから、まぁ外で死んでも厄介事にならないかどうかのチェックですかね」
「なんだ、俺は一度死なないと駄目なのか」
「安心してください、殺しても大丈夫なのかという事も今後検査して決めますから」
「つまり殺してよしとなれば殺すのか?」
「はい!」
「……マキナ、俺の耳は壊れているのか」
「いいえ、問題ありませんでご安心を」
些細な事だと、次の話に進んでいた。
次は俺の身体が成長、もしくは鍛える事は可能なのかという点だ。
「マキナ教官からデータを頂き、エクス君の身体に変化があるかどうかですが……」
「どうなんだ」
「ハッキリ言いますよ、成長しません」
「……」
「サンプルを頂いて、そして現在のデータもいただきましたけど、生まれて一年経っているか怪しいですよこれは」
「おや、そうなんですか?」
「ええ、この大きさで生まれたのでしょう、我々の世界の異形種っぽいですねー、でもヒトなんですよねー、疲れますし、喋りますし、食べるし、感情もある、無いのは経験と知識、まぁヒトにそっくりの異形という可能性も捨てきれませんが」
なんだ、それは。
生まれたからずっとこの姿で、アンウェルやオウカと出会う前の記憶は失われていたのではなく元々無いというのか。
それに成長できないとなれば、俺は戦う事は出来ない?
「ダール、その、これは質問すべきかは悩むところなんだが、俺は戦う事は出来るのだろうか?」
「んー、ちょっと他の人と鍛え方が違う点は置いときますけど、身体を強くするという事は可能ですよー、ですが……」
「なんだ?」
「エクス君を強くしても大丈夫なのかという点、君自身の危険性ですねー、もし強くなって制御できなくなっちゃったら、第五の
「不死の異形すら倒すという
「ええ、何度か第四や第三に派遣されていますよ、第五の遺物を利用しようとして悪さする連中の元に行っています、ま、墓守もヒトですから、観光なんかもたまにしてるみたいです……、話がそれちゃいましたね、とにかく経過次第です、普通に暮らす事も不可能かもしれませんし」
「そう、なのか……」
「ですが多少は自衛手段も必要でしょう、貴方を実験材料にする連中もいるでしょうから」
「……、それは学会じゃないのか?」
「いやいや、私らは馬鹿じゃないので、異形を無理に取り扱うなんてしませんよ、そんな事をしたら最悪世界が死にますよ?」
学会員が言うには、どんな小さな異形でも浸食した相手によっては強力になるという。
過去の例で言うなら、第一世界の強力な機械獣が取り込まれ、今でも第五世界の片隅で近づく者を容赦なく消し飛ばしている事や、第四世界の異能者が取り込まれ、本来あり得なかった力を行使した例もあるという。
「今怖いのは第三世界の秘密結社でしょうかね、魔法の力で異形もなんとか出来るかもしれないと自惚れた阿保の集団、学ばないので、何度事後処理をさせられた事か……、ホント、馬鹿なんですよ、真面目に魔道の探究者にでもなればいいのに異形の力で高みをとかね、本質を理解できない屑め、いつか絶対滅ぼす」
「ダールさん、本音が漏れていますよ」
「失礼、墓所も学会も第三世界は嫌いなんですよ、魔法なんて危険な力、学ばせて争わせて社会形成して、トップの連中が第一世界の
「……心底嫌いなんだな」
俺には実際何があったのかは知らないが、結構魔法には世話になっていたので複雑だった。
第五世界も第三世界も詳しくないが、色々思う所はあるようだ。
「さて、またまた話が逸れたので……、まぁエクス君に関しては引き続き基礎トレーニングで身体に負荷をかけつつ、勉強と検査を続けていきましょう、もしかしたらヒトの様にトレーニングの効果が出てくるかもしれません、集めたデータは少ないですからね」
「可能性はあると?」
「現時点では無いと判断できますが、エクス君はヒトですからね、心境の変化が身体に影響を及ぼす事もあり得るかもしれません、それに時間が掛かるだけという可能性もありますから……、ま、私は多分出来ないと思っていますが」
「やるだけやってみろ、という事か……、ありがとう、ダール」
「お礼を言われるような事はしていませんよ、今後もね」
「いや、俺は自分が何者かを知りたいんだ、だから協力してくれるだけでも嬉しい」
「そうでしたか、では、微力ながら協力させていただく事にしましょう、君が墓守のお世話になるのは見たくないですし」
「俺も燃やされるのは嫌だな……」
その後は第五世界の異形に関しての講義が始まった。
そして、ダール学会員が主導での勉強や検査、負荷をかける為だけのトレーニングと、今までとは全然違う内容になり、それが俺の訓練となった。
疲れても動く身体等は異形の力が関わっているが、どうせなら成長もして欲しい。
強くなるのが駄目かもしれないと言われたのは正直ショックだったが、理由もあるので今は納得するしかない。
勉強すればする程、自分の内側にある異形と呼ばれるモノが恐ろしくなるが、制御できるならそれはとても強い味方だ。
ダール学会員は正直怖いが、心強い味方にも、俺には見えていた。
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