pp.8

 朝起きて身嗜みを整え、ビリーの手伝いの後、朝食をとって講義室に向かう。

 講義室で朝行う事は連絡事項を伝えるだけなのであっさりと終わり、その後は各々訓練へ。

 俺は体力強化の為にトレーニングと、足りない知識を補うために勉強を繰り返している。

 基礎作りとマキナは言っていた、俺はまだ土台も出来上がっていないらしい。



 そんな日々が一週間程続いていた。

 ただひたすら鍛えているので倦怠感はあるが、身体は平気なので問題はない。

 他の候補生は皆時間ギリギリにやってくるので相変わらず三人との交流はない、会話をした事は一度もないのは、彼らがこちらを避けているからだろう。


 そんな事を考えながら朝の連絡が始まるまで支給された携帯端末を弄っていた。

 連絡をしたり、同端末所持者の位置を特定したりも出来るとか。

 俺はアルシアから送られてきたメッセージに返事を送り、時間まで待機する事に。


「あっ……」

「おはようございます」


 ドアの方から声が聞こえてきたと振り向くと、候補生の一人だった。

 少し年上の、頭から獣ような耳が生えている灰色髪の男性だ。


「あぁ、おはようございます……」

「今日は早いな」

「君が何時も早い事に僕は驚いているけどね、エクスだっけ? 僕はリアムだ、よろしく」

「よろしく」


 リアムは隣に座った途端にぐったりとしていた。


「疲れているのか?」

「ああ、うん……、君はまだ大丈夫そうだね」

「そうでもない」

「頑丈だなぁ、一週間くらいたったけど訓練はどう?」

「基礎を作るトレーニングは少し退屈だが、勉強は楽しい」

「君くらいの年齢だとそういう内容なんだね」

「リアムは今どんな訓練を?」

「戦闘訓練、組手とか武器を使って的を壊すとか、最近だと研修も増えてきたかな」

「研修とは?」

「シティガードの任務について行くんだ……、今日も何か起きたら行かなくちゃいけないから、怖い」


 乾いた笑いを浮かべながら、リアムは答えてくれた。

 巡回等は第一の機械がやるようだが、トラブル発生時はそれに応じたヒトが対応しなくてはいけない。

 いつ起きるかわからないので、訓練中でも容赦なく連れていかれるとか。


「リアムはもう戦えるのか?」

「あー……、うん、一応、第一線のヒトに比べるとまだまだだけど僕の身体のおかげで支援とかに徹すればまぁ、やれるかな」

「身体のおかげ?」

「そ、耳とか鼻、脚と色々ね、僕みたいなヒト用に増幅する装備もあるから、薬品だったり隠れている人を見つけたり、追跡とかもするね……、君は?」

「戦闘に関しては何も出来ない、基礎がある程度できたらマキナが何かしら教えてくれる事になっている」

「教官を呼び捨てにしてたから凄い力あるのかと思ってたよ、安心した」

「安心? 何故だ」

「反感を買って、教官並みに戦える力に襲われたくないだろう? 凄い潜在能力があるんじゃないかって、みんな怖がってたんだ」

「そうだったのか」


 怖がられていたのは意外だったが、避けられていた理由がわかったのでこれからは会話も出来るだろうとリアムを見ると、端末を取り出していた。


「連絡リストは作ってる?」

「ああ、リアムの事も登録しておこう」

「やった、何かあれば聞いてくれて構わないから、返事はすぐに出来ないかもしれないが」

「それはこっちも同じだ」


 これで情報交換も出来るなと、リストを確認していると後の二人、そしてマキナがやっていた。

 二人は俺とリアムが話していた事に少し驚いていたようだが、これからは話せる機会もあるだろうとマキナの方を見る。


 いつも通りに今日のスケジュール確認と、今後の動きについてを伝え、各々訓練に向かうと思いきや、俺は残るようにと言われた。


 三人が出ていくと、マキナは書類を見せてきた。


「これは……、検査結果?」

「そうです、君が候補生登録する際に行った検査の一つ、不可解な部分あったので第一世界の機関より、君のサンプルを再検査が行われました」


「不可解な部分……、それは俺が何者かわかる手掛かりになったりするのか?」

「そうかもしれません、そして検査の結果ですが……」


 渡された書類には、継続調査不可とも書かれていた。

 理由を見れば、第五世界の要素が含まれており、検査機器が侵食する恐れありという事だった。


「第五世界……、魔境か」

「はい、第一世界の天敵である魔境は機械を侵食します、そのため機械を使った調査は不可解な事が発生する恐れがあるので調査不可となった訳ですね」

「結局何かわかった事はないのか?」

「あるとすれば君は第五の住人であり、制御可能な異形である可能性があります」

「ヒトではないと?」

「ヒトであり異形でもある、が正しいのかもしれません、詳しくは第五世界にある学会に依頼をしなくてはいけない」


 学会とは、第五世界の総合研究機関であり、閉鎖的な組織ではあるが依頼は受け付けている。

 第五要素の影響が他世界に及ぼした場合の経過観察、危険度判定に、除去可能か否か等様々だ。


「一番大事なのは君が未知の事象である、という事です」

「つまり、俺のようなヒトは確認されていない、と?」

「はい、第五の学会でも異形を埋め込んだり利用したりというのはありますが生まれつき異形を宿しているようなヒトはいないはずです、それにどんな異形なのか確認が出来ていない、君が損傷、及び死亡した場合どうなってしまうのか」

「それはどういう事だ」

「異形の特性の一つとして、消滅させるには特定の武器がいる事、死んでも生き返ってしまう……、更に言うならば」

「ならば?」

「身体が変化しない事、つまり基礎トレーニングをしていても身体が強くならない可能性があります」

「それは……、嫌だな」

「こればかりは経過観察が必要です、この検査結果から第五学会に依頼は済ませているので後日学会員が来るでしょう」


 良い話ではなかった、戦う力は得られず、痛めつけられて殺されても身体が勝手に復元してしまうという。

 それは筋肉が発達する仕組みにも影響がある、ヒトの持つ自己治癒力と超回復を利用せず、異形の力で『元通り』になってしまうのは問題があった。

 今後どうなるかは、第五学会員次第という事になるのかもしれない。


「……わかった、それで今日はどうするんだ」

「データを取ります、試験場に移動しましょう」

「データ? 何をするんだ?」

「今日一日、休まずに走ってみましょうか」

「可能なのか、それは……」

「やってみなくてはわかりません」


 試験場に着き、トレーニングウェアを着込んでとりあえず俺は走る事になった。

 自分自身が何者であるかわかる為に必要な事だと信じて、とにかく走る。


 とにかく走った結果、俺はその日、休まずに走れる事が判明してしまった。

 




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