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俺の第一印象としては、物騒、といった感じだろうか。
第四世界『混沌』
何が起こるのか全く分からない、どんな相手と戦うのか想像もつかない、それを制圧するのだからこのシティガードには選りすぐりの戦闘集団がいると、ピアーズは説明してくれた。
基地に向かう際に見かけた連中をまとめると……。
統括区画防衛には第一世界『鋼鉄』から迎撃特化型四足機械獣が休み無しで常に警戒状態。
第三世界『法術』から選ばれた混沌対策班・魔法係、機械では対処できない事案や、主に人助けに向かうと、各々箒のような棒に乗って飛んで行ってしまった。
第四世界『混沌』は異能集団の混成部隊やら第一から借りた強化スーツとやらを着込んで戦うらしい。
どれもピアーズから教えてもらった事だが、俺は実のところよくわかっていない。
ついでに俺が何かしようものならこいつらが襲ってくるぞと軽く脅されてしまった。
「ところでピアーズ、第二とか第五のヒトはいないのか」
「おい、なんで呼び捨てになってんだ?」
「脅してきたり悪戯するようなヒトはそれでいいだろ、で、質問の返事は?」
「……、いねぇよ、第二はそもそもヒトがいねぇ、第五の連中は手を貸さねぇよ、異形相手のプロで、正直第四の連中よりも強いが異形以外は戦わないんだよ」
「そうなんだ」
「無駄話もここまでだ……、着いたぞ」
基地に着き、長い廊下を歩いて狭い部屋に入ると、寝ている女性がいた。
椅子に腰かけたまま、ぐっすりと寝ている、誰だろう。
「あ~……、先輩、先輩!」
「…………んっ…………、起きた」
「ピアーズ、誰なんだ」
「職場の先輩、今回の事情聴取してくれるアルシアさん」
「んっ……、第二からやってきました、アルシアです……、ピアーズ君が攫ってきたのはこの子ですか」
「攫ってきたようなもんっちゃもんですが、遭難者って言ってもいい状態だったんで、仕方なくってとこですよ」
「じゃ、お話聞いてみますか、そこに座って……、何か飲み物持ってきてピアーズ君」
「へいへい」
アルシアと呼ばれた女性の印象はだらしないといったところだ。
茶色の髪は随分と長く伸びており、筋肉もあるようには見えないし、特に胸のあたりが太っているのかやたらデカい。
ハッキリ言って鈍そうなヒトだ。
「さて、私が鈍そうなのは置いといて……」
「何故わかった?」
「内緒です、私が事情聴取ってやつをしなくてはいけない理由の一つでも言っておきましょうか」
「そうなのか」
「はい、それではお名前と~、とりあえずピアーズ君に攫われた時までのお話を聞きましょうか」
自己紹介から始まり、とりあえず先生の事と外に出た経緯と家事が出来るくらいと自分探しを始めた事を説明していた。
オウカやアンウェルについて面倒なので話していない。
「とりあえずこんなところだが……、どうかしたのか?」
「…………、嘘でしょう?」
よくわからないがアルシアが固まっていた、何があったのだろうか?
「飲み物持ってきましたよっと……、先輩どうしたんですか?」
「ピアーズ君、エクス君が言っていた先生の話は聞きましたか?」
「いいえ、どんな人だったんですか?」
「宙に浮いた、自立した本……だ、そうよ」
「何かおかしいのか?」
「おいエクス、マジで……本なのか?」
「そう言っている」
「知識の……、本の悪魔……の、関係者?」
二人が固まったのでとりあえずピアーズの用意した飲み物を頂くことにした。
この味はコーヒー?
でもなんか甘いぞ、何か入れているのか?
「おいピアーズ、コーヒーに何か入れるのは駄目だ、嫌がらせか」
「マジで子供らしくねぇな……ってそこじゃねぇ! 先輩、これ大丈夫なんですか⁉」
「話を聞く限り……、おそらくは大丈夫でしょう、エクス君は旅に出てきたという事ですので、これは特務案件になりそうというピアーズ君の予感は当たりましたね」
「こんな大事になるとは思いませんでしよ、マジでどうします?」
何やら深刻そうになっているので俺はとりあえずコーヒーのような何かを脱無しかなかった。
「固まっているみたいだが、俺の今後とやらはどうなるんだ」
「そう、ですね……、エクス君に希望はありますか?」
「俺の希望? 先生からは身を守る術がないと言われた、だからそれをどうにかして手に入れたい、後は仕事を探している、俺にはレムリア通貨がないんだ」
「ああ、それでしたら、ここ、シティガードに入る気はありませんか?」
「俺が? 外にいる連中みたいに戦えないぞ」
「戦うだけがここの仕事ではありませんし、候補生になれば最低限の衣食住は約束されます、それに、まだエクス君は子供なんですから、我々の保護対象でもあるんですよ」
「すごい」
すごい、と、俺はそうとしか言えない気分だった。
運がいいというのだろうか、望むモノが手に入ってしまったので戸惑ってしまう。
「候補生とは、どういった仕事なんだ?」
「仕事ではないですよ、仕事に就くために勉強するんです」
「勉強とは嬉しい話だ……、だが、見返りはないぞ?」
「いいんですよ、エクス君は子供なんですから」
「そう、なのか……」
と言って、アルシアも頭を撫でてきた、なんだ、流行っているのか。
鈍そうなヒトだが、悪人という訳でもないのだろう。
「で、先輩……、諸々の手続きとかどうしま――」
「私がやります!」
「すげぇやる気ありますね、普段もそれくらい動いてくださいよ」
「嫌です、大体ピアーズ君だって320通りで何してたんですか?」
「いや、それは……、内緒で!」
「……で、俺はどうすればいいんだ?」
「私についてきてください、色々手続きしちゃいます!」
「わかった」
「えっ、あの、局長にはなんと――」
「私が何とかしてみせます!」
アルシアはコップをピアーズに押し付けると俺の手を引っ張ってきた。
ついて行くというよりは引っ張りまわされると言った方が良さそうだ。
「さ~て、まずは候補生の登録手続きですね……、その前に検査もかな? 今日中に終わるといいんですけど」
「なんだ、俺はどうすればいいんだ」
「着いた先で、色々するんです!」
「……そうか」
正直疲れているので休みたい。
というか朝ごはんしか食べてないので何か食べたい。
そんな気持ちを無視するようにアルシアは止まらない、考えてる事がわかるならわかってほしいがそんな都合良くはいかないようだ。
「最近候補生不足が深刻で、正直入りたいっていうヒトも多くないんです」
「ヒトが少ない」
「もうピアーズ君から聞いたかもしれませんが、我々はとにかく厄介な相手とばかり戦います、なので後方支援できる人も勉強熱心でなくてはいけません、後衛を潰せばこちらが崩れる事をわかってる人も……、あ、少しわかりにくい話ですか?」
「いや、なんとなくわかる」
「エクス君は物分かり良すぎてちょっと不安になりますね……」
「自分じゃよくわからない」
「それでいいんですよ~」
その後は色んな部屋に入っては機械に包まれたり、文字を書いたりの繰り返しだった。
手続きというのは面倒らしく、辺りが暗くなってから落ち着く事が出来た。
「……アルシア、大丈夫か?」
「う、うん……、エクス君は好きなの頼むといいですよ」
総合宿舎にある食堂に座りこんでヘトヘトになってしまったアルシアを見ていると、何故という気持ちになるが、ひとまず気にしないでおこう。
「……、好きな物と言われても、文字だけではわからないぞ」
「ではこれなんかどうだ、少年」
そう言われて振り向くと、すごく怖いお姉さんが立っていた、オウカと同じくらい怖そうな人の手には、よくわからない棒が握られていた。
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