pp.2
ハッキリ言ってどうしていいのかわからない、それが俺の感想だった。
静寂に包まれた今までの暮らしとは大違いの喧しさと知識でしかしらない物体が次々と現れては消えていく、俺は今どこに居て、どこに向かえばいいのか。
「これは、困ったな……」
歩いてきた道は消失し、方向すら怪しくなってきた。
人に声をかけるには、俺の声は小さすぎた。
街の音よりも大きな声で話したことはない上に、何を質問すればいいのかわからない。
先生のおかげで文字は読め、意味は分かるが、だからどうしたと言わんばかりの情報量に立ち眩みを起こしていた。
「……、あれは?」
街角に長椅子を見かけ、とりあえず座って休む事にした。
人の流れを観察していれば、わかる事もあるかもしれないと。
「どうしよう」
悩むが答えは出ない、しばらく座っていると、年配の男性が隣に座り紙を広げていた。
紙には大量の文字が書かれており、この街の情報が書かれているように見える。
見たい、けど、なんて声をかけていいものか……。
「なんだ、気になるのか坊主」
「ッ!?」
話しかけられると思っていなかった俺は、どう反応していいのかわからない。
戸惑っていると、年配の男性はその紙を渡してくれた。
「見ても、いいのか?」
返事は貰えず、男性はそのまま何処かへ行ってしまった。
「……ありがとう」
聞こえてはいないだろうが、男性に感謝しながら俺はそれを読む事にした。
情報紙、とでも言えばいいのか、それには街での事件や広告などが書かれていた。
とりあえず隅まで読み、役に立ちそうな情報がないか探していると広告に気になる事が書かれていた。
『スタッフ募集中! 未経験でも大丈夫!』
『一緒にお仕事しませんか?』
『我が組織は人材を募集している、共に戦う意思がある者は集え!』
『実験体求む、苦労しない生活が待ってるよ!』
『死にすぎて社員不足だけど、今入社すれば大金持ちになれるよ?』
これは、レムリア通貨が貰えるのだろうか?
彼らの仕事をこなせば、通貨が手に入り、衣食住を確保する事が出来る、そういう事なのだろうか?
ちょっとだけ期待したが、俺はそこへ向かう方法がわからなかった。
そもそも仕事をさせてもらえるかもわからない、先生曰く、俺は子供だ。
「俺でも、出来る仕事はあるんだろうか……」
「なんだ、ガキの癖に仕事探してるのか?」
読むのに夢中になっていると、隣に誰か座っていた事にも気づけなかった。
声の方をみれば、ちょっと雰囲気の怖いお兄さんが立っていた。
「ああ、何か出来る事はないだろうかと」
「ふぅん、オマエ、今なんか得意な事あんの?」
「家事なら、出来る」
「子供らしくて結構、なら家でお小遣いでも稼ぐんだな」
「家はない」
「あ? 親は?」
「知らない」
「今どこで寝てんだ?」
「ここに来たばかりだから、無い」
「……、金は?」
「無い、だから仕事を探している」
「…………、歳は?」
「多分、12歳」
質問に答える度に、お兄さんの表情が歪んでいた。
「チッ、この辺の事も知らねぇとなると他からの放棄か、この街には
「何かあったのか?」
「こっちの話だ……、あぁ、えっと、そうだ、名前は?」
「エクス」
「エクスか、よろしくな、俺は一応こういうもんだ」
そう言って小さな紙を渡してくれた、そこには『シティガード特務所属・ピアーズ』と書かれていた。
「ピアーズさん、でいいのか?」
「おう、新聞読んでたからやっぱ文字は読めるんだな、こんな街の境界線もわからねぇ世界だが一応治安維持組織もあってだな、わかるか、治安維持って意味は」
「その辺はわかる」
「そうか……、改めて聞くが、この街は初めてなのはわかったが、ここ第四も初めてか?」
「第四には居たが、外に出たのが初めてなんだ」
「なんかよくわかんねぇ環境だな……、まぁいい、これからどうするか予定はあんのか?」
「予定はないが目的はある」
「なんだ?」
「自分が何者なのか、俺はそれを探している」
「子供っぽくないな、全く……、オマエ、俺に着いてくる気はあるか?」
「着いて行くと何がある?」
「寝る場所と勉強、訓練が出来る、自由は少ないが飢えはしない、どうだ」
「いいのか?」
「ああ、これも仕事なんだ」
「そうなのか、でも、ありがとう……、正直どうしていいのかわからなかった」
「俺が悪い人なら後悔するぞ?」
「構わない、結果的に死ななければいいと思う」
「そうかい」
ピアーズは呆れているのか微妙そうな顔で俺を車とやらに乗せてくれた。
その車はタクシーと呼ばれているらしく、この広い街を移動するのによく使うらしい。
「これが、機械?」
「なんだ、第四なら珍しくないだろ」
「俺の周りにはなかった」
「……、ホントに第四か?」
「他のレムリアに行くには
「まぁ、そうだな……、知識があるのかないのかわからんなオマエは」
「文字を知り、勉強したのはいつ頃だったか、一年も経って無い筈だ」
「……ま、詳しくは着いてから聞こう、その先生の事とかさ」
「わかった」
それからしばらくは、街並みを見ていた。
先生の絵に似た物はなんとなくわかるが、それ以外はわからない。
実物とやらの機能や使い方も今から学ぶ事になるのだろうか?
着いた先で、俺はどうなるのだろう?
ピアーズさんの方を見れば、手に四角い物を持って、何やら独り言を呟いていた。
「ええ、そうです、エインティア320番通りで子供を保護したんですが、ちょっと事情がありそうなんで局長に連絡を……、えっ、珍しい? 保護だって出来ますって……、一応特務関連になりそうなんですよ、会えばわかりますって、え、今日局長居ないの、なんで? 釣り? 嘘でしょう、全然釣れないじゃんあの人、じゃーえっと、先輩だけでいいですから、事情聴取付き合ってくださいよ、はい、それじゃ」
「ピアーズさん、それ何?」
「電話だが……、見た事なかったのか?」
「それが電話なのか、他の事も出来ると聞いた、色々知りたいんだがいいだろうか?」
「こ、今度な……」
「わかった」
オウカもそうだが、俺はよく頭を撫でられる、何故だろう。
「ピアーズさん、今何時頃だろう?」
「ん? 15時になるとこだな、どうした?」
「いや、なんでもない、ありがとう」
屋敷を出たのは朝食を片付けてから一時間も経っていなかったはずだ、あの霧の道でそんなに時間が経っていたのだろうか?
というか、せめて書き置きくらいはしておくべきだった、オウカに保護してもらったというのに……、でも先生がいるから大丈夫か。
「オウカが知ったら、怒るんだろうな……」
「どうした?」
「なんでもない、後どのくらいで着くんだ?」
「もうすぐだ、そろそろ見えてくるんだが……」
高い建物ばかり見えていたが、その場所はそういった建物が減っていた。
その区画だけ凹んでしまったように開けており、空も見える。
区画に入る前にタクシーから降ろされ、ピアーズと共にデカい門へと向かっていた。
「随分と、綺麗な場所だ」
「ま、そういう場所だからな、ここは」
「なんていう場所なんだ?」
「エインティアシティガード第二統括区画だ、区画内には基地、通信司令本部と発着場、他には技能訓練校に総合宿舎ってとこだな……、施設の意味はわかるか?」
「なんとなく」
「そうか、じゃあ、ひとまず基地の方に向かう、オマエの今後が決まる場所だ」
厳重な門からは大きな、おそらくは機械が出てきていた。
物々しい雰囲気を感じながら、俺はピアーズと中へ入っていく。
俺はこの先、生きて出る事は可能なのだろうか?
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