愛するlotolp
ジャングルの迷い子(propose)
僕たちはやっと手を繋いだ
それを愛と呼んだとして、咎められることはなかっただろう
けれどそうしなかったのは
ひとつは恐怖であったし(断定する勇気がなかった)
ひとつは劣等感ゆえのことであり(僕がきみにふさわしいわけがない)
そして決定的なのは
僕らがいまだに迷い子で
帰る場所がなかったってことだ
恋が鮮烈の花火だとすれば
愛は調和の安寧だと言える
そして
愛は
それが日常になることで
初めて意味をなす
帰る場所があって
先に帰った者が
後に帰った者に
おかえりと
神の奇跡にも等しい言葉をかける
それこそが
愛でなくて
他の何を愛と呼べばいいのか
愛が求めるのは
分かたれた翼が重なることではなくて
ごくごく些細な
ひとつの返事だよ
勘違いしないでくれ
おかえりってだけじゃ
愛になるもんか
愛が成立するのは
ただいまって返ってきた時だよ
まったく難題きわまりないよ
僕らはいまだにさまよっていて
幼い頃の傷を
ひとつふたつと数えている
痛むのかいって問うのだけれど
「痛む」と返ってきたり
「平気」って返ってきたり
それはもしかしたら
愛と呼んでいいのかもしれないけれど
僕の美学としては
個人的なこだわりとしては
こんなん愛じゃねえよって
昔の傷ばかり見て
昨日に続く愛を獲得しても
明日に向かうものがないんだよ
きみは歩き出す
ジャングルを裸足で
ああこれって
ちょっと愛かもしれないなあって
ふっと心によぎる
理屈に合わないことを言ってるのはわかってる
けど
君の後ろ姿
よっぽど愛に見えるよ
もし
あと3歩ほど進んだ先で
野生の虎に喉をかみちぎられたとしても
たぶん鮮血が
まるっきり愛に見えて仕方ないと思う
おかしなことを言ってるのはわかってるよ
でも
ずっと迷い子でいてさ
よっぽど当たり前じゃない僕たちが掲げる愛なんて
最初からそんなものなんじゃないかな
鮮血だとしても
ちぎれた筋肉だとしても
僕は目をそらさない
最後まで
たぶん
それも愛だから
いやいや馬鹿を言わないでくれ
あくまでこれは仮定の話
目の前で虎に襲われたりしたら
武器があろうとなかろうと助けに行くって
でも
なんでだろうな
命がけで助けに行くことを
愛とは思えないんだよ
それはなんていうか
僕がかっこいいってだけの話
うっかり返り討ちかもしれないけど
ふたりとも肉塊になっちゃって
これからは同じ場所にいて
おかえり・ただいまって
馬鹿か
ジャングルを裸足で歩いて
虎が出るのか
沼があるのか
桃源郷か
どれにしたところで大差はなく
僕たちは迷い子のままだ
僕らが並んで歩いても
それは過去に向かう愛でしかなく
迷い子でなくなる日なんて想像できない
僕らに愛があったとしても
それは未来に向かわない
手を繋いでみた
震えていた指先に
だんだんと力がこもり
恐怖も劣等感もどうにか捨てて
きみに向き直る
瞳から目をそらさずに
どうにか言葉を紡ぎ出す
愛さなくていい
僕も愛さない
ここから出られる保証はない
傷もどうせ治らない
手にできないものはとても多い
明日にはそこらの獣の餌になっているかもしれない
それでも
それでもよければ
愛の全てをかなぐり捨てて
そんなもんいらねえよって言って
ふたりがふたりでいられる間ずっと
共に迷い続けてくれないか
もういっそ
仮に出口を見つけたとしても
火をつけて蹴り壊す勢いで
僕らふたりで
愛ってひと言で表せるような
陳腐な言葉に頼らないで
迷い子であり続けて
共にいることを
答えにしてはもらえないかな
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