バックライトだけ



愛とか恋とかめんどくせえな

(そりゃそうだけど)

こんなこと言ってちゃいけないのかな

(いけないんだろうけど)


疲れ目に効くという目薬をさしたらすっきりした

けど

真っ暗な部屋で携帯をいじるのはやめられない

これが

愛なわけないけど


なんかもう

手を繋ぐのさえ億劫で

誰だ?

ひとりじゃ弱いから手を繋ごうなんて言ったやつは

ああそれは

僕だ

これはつまり何だ?

簡単な現象だ

要は嘘だからだ

弱者がいくら手をつないでも弱者のままだ

強者が結託するから意味があるんだ

(本当にそうかな?)

僕は嘘つきだ

そして手を繋ぐのも億劫で

不器用だからいまだに目薬がうまくさせない


君の声が聞きたくなった

のだけれど

なんだかやっぱりそれも億劫で

湿った布団に沈んでる

出口のない浅瀬

満潮も干潮もなく

(これは貝かもしれない)

君の声が聞きたいのは本当なのに

(貝は喋れない)

いつか駆け抜けた先の片瀬海岸

の青がふっと脳裏にくらんだ

行きたくなった

それは億劫ではなかった

けれど

僕の自転車は錆びている

ギアも壊れてるし

たとえ行ってみたところで

やっぱり

愛とか恋とかめんどくせえんだろうな

(どうしてこうなった?)


愛はいいものだよ

満たしてくれる

喜びか悲しみかはわからないけど

満ちる

そのことに好い悪いなんてあるものか

満ちるからいいんだ

愛はいいものだ

手を繋いで

強くはなれないけれど

ちょっとだけ

そう

明日の朝

寝坊せずにちゃんと起きるくらいはできる


でも

めんどくせえよな

(よくはないけど)

真っ暗で

携帯のバックライトだけ

布団の海に沈んでる

君に電話もかけずに




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る