日陰の戦士 ーさらば魔法王国ー
おこばち妙見
第一部 剣と魔法の世界に召喚された俺は、現代知識で無双する!
第一章 冒険の始まり、冒険の終わり
第1話 異世界の勇者
「ほ、本当に出来たッ!」
目の前に居るのは、見たこともないフリフリのドレスを纏った少女だった。
「……君は? ここはどこだ?」
周りを見れば、洞窟のような空間。炎が揺れるランプで照らされている。
足元には、魔法陣のような光る図形。
「俺に……何をした?」
パソコンショップで買い物をして、家に帰る途中だったはず。
今日はセールで、十五万円もするノートパソコンも二割引きだったのだ。
アルバイトで貯めた貯金を握りしめて、話題の最新型を買って。ついでに最近物騒だから防犯用品。ナンバーロックの鍵だ。それらを鞄に入るだけ詰め込んで。
電車に乗って、家から最寄りの駅に着いて、改札を抜けて……そこからの記憶がない。
「わたし、マリア。これでも王女なんだから。ここは、中央大陸のエイプル王国、フルメントムの町……の、郊外の廃鉱。あなたは、私の転移魔法で召喚した、異世界の勇者様ね!」
「何だそりゃ! いきなりそんなこと言われたって、困るよ! 家に帰してくれ! すぐに!」
思わず声も荒くなる。しかし、言い過ぎたようだ。マリアと名乗った少女は目に涙をたたえている。
「……だ、だって……わたし、いっつもみんなからバカにされて……『王女のくせに魔法も使えないのか』って……そんな事ないもん! わたしだって魔法使えるもん! 回復魔法は練習中だけど……」
「え? 魔法?」
「そうよ! この国の王族、貴族はみ~んな、魔法使い! もちろんわたしもね! あなたの国には、どんな魔法があるの?」
「無いよ!」
魔法なんて、空想の世界の概念だ。
日本には魔法使いなんて一人も居ない。
「ということは、あなたは平民と同じね。この国にも、魔法を使えない人はたくさんいるわ!」
「いや、だから帰してくれよ」
そう言うと、マリアはまた泣き出した。
「だって……! ぐすっ、あなたを連れて行かないと、証明できないじゃない……わたしだって魔法使えるもん! うああああん!!」
泣く子にはかなわない。それに、よく見ればマリアは抜群に可愛い女の子だ。もしかしたら、自分にも付き合ってくれたりするかもしれない。
彼女いない歴=年齢の、寂しい人生も、終止符を打てたりするかもしれない。
もしかしたら。もう少し育ったら。さすがに今は幼なすぎる。
「……わかったよ、ちょっとだけな?」
「ホント?」
「ああ」
マリアは、まるでスイッチを切り替えるように満面の笑みになった。
「やったーっ! これであの生意気なクレイシク女にギャフンと言わせてやれるわ!」
「クレイシク?」
また聞きなれない言葉だ。
「隣の国よ、クレイシク王国。そこの王女、性格悪いの! 留学生のくせにわたしのこと、バカにするんだから! あなたに会えば、きっとわたしの偉大さがわかるわ!」
「ははは……」
どこの世界も、そういった事情はあまり変わらないようだ。
マリアはこちらに向き直った。
「あなたの名前、聞いてなかったわ。何ていうの?」
「
「ジョージね! よろしく!」
マリアは右手を差し出す。譲二は、その手をしっかりと握った。
「行こっ!」
そのままマリアは扉を開いた。譲二も引っ張られるように外に出る。
――それが、始まりだった。
時に、大陸歴八八八年の事である。
◆ ◆ ◆
エイプル王国は、地球で言えば中世末期から近世くらいのヨーロッパに似ている世界だった。
電気も、自動車もない。王侯貴族が支配する封建社会。
はっきり言って遅れている。
譲二は思った。
自分の現代知識をもってすれば、地球では絶対にできない大出世も可能ではないだろうか?
転移魔法陣は若干、ほんの若干、地球との連絡が可能だ。
驚くことに、魔法陣を通してインターネットへの接続も出来る。
まさしくチート。
譲二は目まぐるしく働いた。彼は、地球に何の未練も無かったのだ。
エイプル王国は、いや世界は譲二の知識で、どんどん変わっていく。面白いほどに。
――そして、二十六年目。大陸歴九一四年。
栗栖譲二、死す。
この事件は、またしても世界の構造を変革していく。
物語はその四年後、大陸歴九一八年のエイプル王国、リーチェの町から始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます