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の時はタオルで拭いただけで間に合ったが、今回はそうはいかない。べったりと張り付くらい濡れているのだから。

 カウンターから出ないと言ってもさすがにこれではまずい。裏に掛けてあった予備のスラックスへと穿き替えた。

「うぁ」

 靴下まで濡れている。救いは靴の中までは濡れなかったことだろうか。靴下も予備(と言う名の購入して持って帰っていなかっただけのやつ)のものに履き替えた。

「水難の相か」

 ばっちりと当たってやがる。あの占い師め、やはり本物だったのか。

 土曜の昼と言えば、平日よりも飲食店街がひっそりと静まり返っているように思える。平日はランチ営業をしている店舗もちらほらあって昼時はサラリーマンやOLを見掛けることもあるが、土日の休みともなればそれもなく開店前の静かな時間が流れていることが多い。先の商店街は賑わっているようだが、少しの距離で大違いだ。

 俺はこの空間も好きだけれど。

 いつもの様にかどわき青果店でフルーツを買っての帰り道。突然路地の隙間から細い声が聞こえた。

「気を付けて」

「うおっびっくりした!」

 俺はホラーは嫌いじゃなくてもビックリ驚かす系は苦手なんだ。

「もう、ミクリさん驚かさないで下さいよ」

 平静を装いつつ、心臓はバクバク言っていた。ミクリさんは見た目もちょっとだけホラーだから。

「今失礼なこと考えた?」

「いえ」

「まぁいいですけど。花菱さん、水難の相が出てる」

 表情を崩さないまま、すっと人差し指で俺を指す。おいおい、何だよこれ。

「気を付けて」

「え」

 訊き返す様に「え」と口に出したけど、ミクリさんは踵を返して路地に消えた。

「えー…」

 残ったのは俺の何ともいえない情けない声だけ。ミクリさんは薄気味悪い助言だけしていった。っていうか、助言じゃねぇし。気を付けてって何をどう気を付けたらいいか分かんねぇし。

 なんて両手に抱えたショッピングバッグをぎゅっと握って歩き出した、その瞬間。

 ばしゃっ。

「ギャッ」

 俺の足はタバコ屋のばーちゃんに柄杓で濡らされた。水やりをしていたらしい。なんてベタな。

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