6.いくつかの再会(3)
その後手近な店で聞いてみたところ、目印の店はすぐに見つかった。ワカバ通りの出口近くの店の一つに牛の絵の看板がかかっていた。教えてくれた人はカウシ亭と呼んでいた。今まで通って来た宿場町のどこにでもあったような、食堂兼酒場の大衆的な店だ。
「占いの店はここだね。王女様御用達って雰囲気じゃないけど」
結果を確認する緊張をごまかしたのが伝わったのか、ラルゴはニナの背を軽く押した。
「とにかく聞いてみよう」
準備中の札が下がった扉を開けて中に入ると、カウンターの奥にいた大柄な女が振り返った。
「いらっしゃい。申し訳ないけど、お客さん、開店はまだなのよ」
「ちょっと尋ねたいことがあって来たんだ」
ラルゴが帽子を取ると、女は小さく息を飲んだ。単純にラルゴの傷に驚いたのか、リーンから何か聞いていたせいで驚いたのか、どちらとも取れた。
カウンターに向かったラルゴに続こうとしたら、すぐ後ろで扉が開き、ニナは呼び止められた。
「お嬢ちゃん」
「これ、落とさなかったかい?」
振り返ると、二十代半ばの若い男が二人。そのうちの一人がスカーフのような布をニナに見せた。
「ううん、私のじゃない」
「え、そうかな?」
「もっとよく見てくれ」
布を持った男はニナにそれを押し付け、もう一人がニナの腕を掴んだ。突然のことで、ニナは逃げそこなった。
「お嬢ちゃん、さっき、王女様って話してただろう?」
「離せ」
ニナは男を睨む。掴まれたのが右腕だったのは運が良かった。左手でコートのポケットを探り、道中で作っておいた魔法具――木片に魔法陣を刻んだもの――を取り出す。人差し指で血をつけようとした寸前、後ろから現れた別の誰かに、魔法具ごと左手も掴まれた。
しまったと焦ったのは一瞬で、なじんだ魔法の気配を感じ取って、ニナは今度は違う意味で焦った。
左手を掴んだ相手は、ニナを抱くようにして、右腕から男の手を外す。
「離してあげてよ」
「いいのか?」
「この子はいいんだ」
ニナはどうしたらいいのかわからず、手を握られたまま固まっていた。そんなニナの頭の上で、会話が進んでいく。
「知り合いか?」
「妹だよ」
「え? シイナの妹?」
「王子様の妹なら、このお嬢ちゃんも王女様?」
「言われてみりゃ、似てる気もするなぁ」
さっきまで険悪だった男たちは、ニナを見て、怖がらせてすまなかったな、と笑う。
彼らに首を振って答えてから、恐る恐る振り返ると、銀髪の青年がいた。薄青色の瞳を細めて微笑む。ニナに顔を近づけると、
「これは秘密にしておいた方がいいよ」
そう囁いて、軽く人差し指に触れてから手を離した。
「王子様ってのは何なんだ?」
咎めるような口調とは裏腹に満面の笑みで、ラルゴがシイナの肩を叩いた。
「ラルゴ!」
店の奥から走ってきた煉瓦色の髪の若い女が、椅子にぶつかって転びそうになるのを、シイナとラルゴが慌てて支える。彼女がリーンなのだろう。
ニナは、初めての魔法の依頼を完遂できた達成感と、占いが当たった安堵感と、少しの疎外感でもって、彼らの再会に立ち会っていた。
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