6.いくつかの再会(1)

 オークルウダルー村を出発してから、二十日後。ニナとラルゴは国の中央を南北に通るハールニール街道を、馬で南下していた。ラルゴの後ろに乗せてもらって、ニナは楽に旅を進めた。

 道中の話題で、ラルゴはモニエビッケ村まで馬に乗って来ていて、その馬は村の代表の家に預けたままだと知って、ニナは申し訳なくなった。ラルゴには貰いすぎだった。いつか返せるだろうか。

 ティサトからは、別れた翌々日に連絡が来た。通信用の魔法具で連絡が取れるようにしたのだ。硬貨くらいの大きさの真鍮の円盤の片面に魔法陣が彫られていて、それを二つに割ったものを互いに持ち合って通信できる。ティサトの手持ちのごく簡単なものだから、通信具に向かって話した声が時間差でもう一方の通信具に届くだけで、時の魔女の通信鏡のように会話ができるものではなかった。それでも、ニナは、「頼りなさい」というティサトの言葉を形にして与えられた気がして、心強かった。紐が通せるようになっていたから、ニナは白磁の葉と一緒の革紐に通して首に下げていた。

 ティサトは、モニエビッケ村のエヌの呪いの件は片付いたから心配しなくていい、と連絡してくれた。

『エヌの家は元の森に戻したわ。エヌの魔法の気配はなくなってしまったけれど、あの森はニナのことが好きだから、いつかまた訪れてあげてね』

 元の森に戻すというのがいまいちわからなかったのだけれど、今度会ったときに教えてもらえばいい。今はまだ、あの悲しい場所に戻りたい気持ちにはなれない。何年か、何十年か経ったら、そう思えるだろうか。

 そうなったらいいとニナは思った。

 アマネの召喚は、オークルウダルー村を出てすぐに行った。あの遺跡からあまり離れないうちの方がいいと思ったのだ。

 ラルゴに待っていてもらって、道から見えないくらい森の中に入り、魔法陣を描いた。

 呼び出されたアマネは、早い再会に少し驚いたようだった。

 ニナがシイナの名前を出すと、

「シイナなら知っている。人質で王城に捕らわれている男だろう」

「捕らわれている? そうなの?」

「何度か呼び出されたことがあるぞ」

 アマネは、ふわりと甘い匂いをまとわせて、ニナの正面に降り立った。

「最後に呼び出されたのは?」

「あれは……二年前か?」

「王城に?」

「そうだな」

 駆け落ちする前のことだろう。

「今はお城にいないみたいなんだけど、どこにいるかわかる?」

「……ちょっと待っていろ」

 そう言って、ニナが返事をする前に、アマネはすうっと消えた。

 そして、数分も経たずに、同じように現れた。

「王都だ。川沿いの下町か? よくわからんが、酒場か飯屋か、そんなところにいたぞ」

 アマネがあっさり言うから、ニナは驚く。

「え? 見てきたの? 今?」

「ああ、そうだが」

「そんな簡単にわかるものなの?」

「まあ、タウダーラーだしな。呼び出されたことがあるから、名前も顔も知っているし、余計に探しやすい」

「そうなんだ……」

 ニナは少し脱力した。自分一人では、だいたいの方角しかわからないのに、魔物の力を借りるとこんなにあっさりわかってしまうのか。アマネとシイナの関係が特殊だからだとしても、だ。

 今まで人探しの占いは、人を鍵にして魔法を使っていたけれど、探す相手が通りそうな場所や関係ありそうな場所の魔物を呼び出して尋ねる方法もあるのかもしれない。そして、おそらくニナにはその方が向いている。これからは、エヌのやり方をそのまま真似するんじゃなくて、自分に合ったやり方を模索する必要があるのだ。

「ん? どうした?」

 下を向きかけたニナの顔を、近寄ってきたアマネが見上げ、頬を叩く。その冷たい指先はニナを案じていた。

 ニナは気持ちを入れ替えて、アマネに笑顔を返した。全部これからだ。気付いたのなら努力していけばいい。

「ううん。どうもありがとう!」

 アマネは笑みを浮かべると、

「またな」

 短く言って、消えた。

 ラルゴのところに戻ったニナは、アマネから聞いたことを伝え、王都を目指すことになった。

 その王都も、もうすぐだ。道の先に石造りの大門、さらに先に建物も見えてきた。

「あれが北の大門?」

 ニナは落ち着かず、後ろのラルゴを振り返る。ニナを抱えるようにして手綱を操るラルゴは、苦笑してうなずいた。

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