第56話 ご注文は鉛弾ですか?


 真っすぐに――――それこそハンドルを固定するつもりで握り締めたアベルは、アクセルを強く踏み込んでエンジンを全開に回す。

 ディーゼルエンジンの唸りを上げたL-ATVが完全に虚を突かれた騎馬集団の側面へと回り込んでいく。


「オーケー、ようやく生本番だ! お嬢様ども、不法侵入の盗人どもから罰金の取り立てるぞ! 請求書は鉛弾だ、たっぷりお見舞いしてやれ! カマすぜHere We Go!」


「「イェアッ!!」」


 敵の大軍を前にしてアドレナリンが分泌されているのか興奮気味にあるアベルの叫びを受けつつ、アリシアとレジーナはM27 IARの引き金を絞り、ちょうどアンゴール軍本命の横合い後方からから殴りつけるように銃弾を叩きつけていく。


「余所者にいつまでも好きな顔はさせないわよ!」


 アリシアとM27が吼え、銃弾に身体を貫かれたアンゴール兵が新兵・熟練兵の区別もなく大地へと沈んでいく。


 拙い部分はたくさんあるが、これが現状のチーム人数的には最善の選択肢だったとアベルは思う。


 本来であれば、重機関銃か最低でも汎用機関銃GPMGをL-ATVの旋回式銃座ターレットに据え付けるべきなのだろうが、給弾方式がベルトリンクであったりすると給弾手なりが必要になりそれ一挺に頼らなければいけなくなる。

 そうすると、これに加えて人数を分散させている状況下では、何か不測の事態があった時にマンパワーが足りなくなってしまう。


 その点、M27 IARはカービン銃であるM4より高い命中精度・射程・制圧力を持ちながら、アサルトライフルであるM16A4より取り回しが良いため、個人個人での扱える上に操作も非常に簡単なのだ。

 さすがに機関銃ほどの制圧力とはならないが、現時点ではベストの武器と言える。


「ホラホラァッ! よそ見してると、おっぬわよ! 吹っ飛びなさい!」


 相手に届くかどうかなどお構いなしに叫びながら、L-ATVの助手席から上半身を乗り出したレジーナがM27に取り付けられたM320のグレネード弾を銃撃の合間に撃ち込む。


 着弾地点の騎馬兵が榴弾の破片効果によって身体を四方に

 また、その範囲外でも破片を受けた兵と馬が暴れ、何が起きたかわからない後続がそれに巻き込まれていく。

 一撃でとんでもない効果をもたらし、それが新たな恐怖を敵兵に植え付けるのだった。


「んー、ナイスクラッシュ! ……でもダメね、単発じゃ火力が足りないわ。少佐ァ、Mk.19はなかったんですか!?」


 間断なくM27を撃ちまくりながら、レジーナがアベルに話しかけてくる。


 彼女の言うように、M320やM203グレネードランチャーで使用される40mm×46低速グレネード弾よりも炸薬量のみならず射程までもが大幅に強化された40mm×53中速弾を使用するMk.19 Mod3 自動擲弾銃グレネードマシンガンがあれば火力の面でも大幅に戦いやすく――――それこそワンサイドゲームに近くなるのは間違いないのだが、残念ながらここにそれは備え付けられてはいなかった。


「あったらとっくに使ってる! 遠隔操作式無人砲塔RWSどころかまだ重機関銃M2も使えやしないんだぞ! それに解除条件がまるでわからん!」


「相変わらず、良くも悪くもとんでもない機能ですね!」


 レジーナがさらなる弾丸を送り込みながら叫ぶ。


「気難しさは女以上だ! とりあえず手持ちの弾を撃って撃って撃ちまくれ! 弾切れカンバンまでまだまだあるぞ!」


 運転席の窓ガラスに矢が着弾。

 しかし、貫通どころか傷さえつけられずに弾かれる。


「労働条件がキツいですよ! とんでもない職場に来たと早くも後悔しそうです!」


 もう一発グレネードを発射。

 新たな悲鳴と小さな地獄が生み出される。


「良かったな! 全世界に展開している海兵隊マリーンの誰にも経験できないことだぞ!」


 レジーナに返事をしながら、窓から出した右腕で牽制程度とはわかりながらもH&K MP5A4 短機関銃サブマシンガンを撃ちまくるアベル。


 さすがにこの不整地ではL-ATVを運転しながらアサルトライフルクラスの反動を抑え込むのは少々厳しいのだった。


 9mmパラベラム弾では射程・威力共に不満はあるが、それでも200メートル程度までなら身体のどこかにさえ当たればそれなりのダメージは与えられる。


 敵を殺すことが第一目的ではなく、あくまでも戦力を奪うことが目的なのだ。

 むしろ、人より馬に当ててやるくらいの気持ちでもいい。


 全力で走っている馬が転んだとすれば、乗っている人間が落ちて無事で済むなんてことはまずあり得ないのだから。


「十時の方向、逃げる敵が味方の脇に回り込もうとしているぞ! アフターサービスだ、ケツを蹴り飛ばしてやれ!」


「「イェッサー!」」


 アベルからの命令に、小気味よく返事をするアリシアとレジーナ。

 しかし、現実には相手が多過ぎて息をつく暇さえない。


「もう! キリがない! こんなの、一般歩兵の仕事だわ!」


 素早くタクティカルリロードを行いながらレジーナは「やってられない」とばかりに叫ぶものの、それでも彼女はプロとして恥じぬよう気合を入れてM27の引き金を引き続ける。


「こんなにも味方の航空支援のありがたみが理解できたことはないな!」


 アベルもL-ATVのハンドルをコントロールしながら溜め息を漏らす。


「ええ、本当に! 守護天使アークエンジェルの顔が見たいですよ!」


「本当に天国へ行っちまわないようにしないとだがな!」


 

 射撃スキルなどもはや不要。

 適当に撃ってもどれかには当たってくれるほどの七面鳥撃ち状態だ。


「そろそろ仕上げが必要だな……」


 アベルは視線を巡らせて敵を探す。


 どいつをれば、この戦況を一気にひっくり返すことができるかを――――。






「クソ、またひっくり返された……! だが、


 馬を駆るひとりの男の口から、溜め息と共に意味ありげな言葉が漏れる。


 騎乗可能らしい謎の生物L-ATVの登場から、瞬く間に数十騎にも及ぶアンゴール兵が薙ぎ倒されていた。

 しかも、敵は謎の遠距離攻撃魔法だけではなく爆裂魔法らしきものまで使ってくる。


 実のところはアリシアたちも必死で銃を撃っていたのだが、撃たれ続けている方はもっと必死だった。

 おそろしい何かが音を立てて飛来し味方の命を一瞬で刈り取っていく。そこには本来、人にならある程度混ざるであろう容赦の類が一切含まれていない。


 不幸にも数発が連続して肉体に命中した兵などは、無残な死体になってしまっている。


 アンゴール兵たちは知らないことだが、5.56㎜弾はインチ表記に直せば.223インチ――――約.22口径と小さく感じられるが、その威力は.45ACP弾などの大口径拳銃弾の数倍にも及ぶ。

 それだけの威力を持つ弾丸が、弓矢など比較にならない密度で流星のように叩きつけられるのだ。生身の身体ではどうすることもできはしない。


「若、このままでは――――」


「ああ、こちらの被害が増えすぎる。挑むしかないか……」


 副官からの言葉に男は逡巡する。


 風がいている。


 空を切り裂く音が響き渡る。


 地面に当たって巻き上げられる土が目に見えない死神の接近を思わせ、騎馬兵たちの身体の股座またぐらを吹き付ける風よりもはるかに強く委縮させていく。


「怯むな、ここが踏ん張り時だ! 我々であの化物を仕留めるぞ! ついてこい!」


 男は叫ぶ。特に有効な手立てがあるわけでもない。

 だが、ここで指揮官が何もしなければ瓦解するだけだ。


 覚悟を決めた男は、自身が率いる部隊のうち、精鋭を数名引き連れて馬を操る。






「――――少佐、敵が来ます!」


 銃撃を続けていたレジーナが警告の声を叫ぶ。


 それはアベルの方でも確認していた。

 光栄なことにこの場でもっとも脅威度の高い敵と判断してくれたのか、一部の部隊がL-ATVの方へと向かってきて突撃してきている。


 敵との距離が十分に空いていることを確認して、アベルはL-ATVを一旦停める。


「撃ちますか?」


「いや――――」


 アベルはと確信している人間を探す。


 目を凝らすと、すぐにひと際体格のがっちりした馬に跨る男の姿が見えた。

 兜をかぶっているために素顔はよくわからないが、明らかに周りとは身分が違うと思われる人間だった。


 しかも、兜の中からこちらに向ける目つきが尋常じゃない。


 ――――アレか。


 その姿を目にしたアベルは、確信と共に喉元のインカムに手を伸ばす。


「ゲッコー。アイツだ、やれ」






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