エピローグ(改)

 こうしてドエ大陸に大きな爪痕を残しながらも、〈銀の守護者〉たちによる侵攻は失敗に終わった。〈評議会〉からは、これは各都市による緊密な連携の成果によりもたらされた偉大なる勝利なのである、との声明が発表されていたが、巷の人々の間では、実際にはこの勝利はある秘密組織の暗躍のおかげによるものだったのだ、とひそかに噂されていた。

 だが誰も、実際にダチェルで戦ったものが誰だったのか、死んでいったのがどんな者だったのか、ということについて、知ることはなかった。

 一人を除いては。

 ある夜のこと。その男は匂いを嗅いでいた。彼が殺すべきものの、匂いを嗅いでいた。彼の足はしなやかだった。彼の髪は狼の毛のように硬く、銀色に染まっていた。彼の二つの瞳は美しい青色だった。

 そして彼は匂いの源にたどり着いた。そこは人里離れた荒野に立つ農家であった。

 彼は、生々しい血の匂いをも嗅ぎ取っていた。

 足音を殺し、家の中に入る。そして見た。今まさに、胸を引き裂かれ殺されたばかりの男の姿を。今まさに、その脳髄を強引な〈交信〉により吸い取られんとしている女の姿を。女に覆いかぶさっているのは、身体中から〈銀の根〉が生えた、蝿のような頭をした男だった。

 匂いを嗅ぐ男の気配に気づいた蝿男が振り向く。そして恐怖の叫び声をあげた。蝿男が見たものとは、彼にとっての恐怖の象徴そのものであったのだ。

 男は言った。


「そこな醜い蝿男よ。私の名前を知っているか。知っているなら言ってみよ」

「は、はい。あ、あ、あなた様は──」

 

 男の左拳が蝿男の顔面に突き刺さった。顔を抑えて転げ回る蝿男を見下ろしながら、男は冷たく言い放った。

 

「そなたごときがこの私の名前を口に出せるなどと思うなよ、この虫けらめが」

 

 そして男は言った。

 

「我が名はヨルン。〈銀のけもの〉のヨルンである。私は今からそなたを殺す。それが私の定めだからだ。そしてそれが私の誓いだからだ」

 

 そして蝿男は死んだ。惨たらしく。このヨルンという男は決して、約束を破らない男なのであった。

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