第3話 時神巧

「おまえはこれからどうしたい?」

職員室にやって来た自分の化身の望を教員控室に連れて来た愛美露出手先生は、なぜ望が現実世界にいるのか、なぜ巧と一緒にいるのかを聞き、その上で望に今後どうするのかを尋ねる。

「どうって、巧くんと一緒に入れたら幸せです。」

望はモゾモゾ体をくねらせて恥ずかしそうに言う。

「この色ボケめ。私が聞きたいのは、これからの展開だ。」

愛美露出手は我が化身ながらと呆れる。

「え!? それならそうと言ってください!」

望は恋は盲目から正気に戻った。

「愛と美の女神の私を筆頭に、これだけ美しい女神がいればビジュアル的には困らない。おまえと巧でボーイズラブ要素もOK。あとは展開をどうするかだ。アイテムを集めて願い事、不老不死が叶う系にするのか、姫が魔王にさらわれて救出系にするのか、人間を皆殺し系やアイドル系にするか、それとも最初に約束を打ち上げ系にするのか、これからどうする気だ?」

愛美露出手は既に約束縛り系を望が使用していることを知らない。

「巧くんとラブラブしたいんです!」

望は真剣だった。

「バカな化身を持ったものだ。はあ・・・。」

愛美露出手は欲望のままに生きる望に呆れた。

「そういうアプロディーテー様は、どうして現実世界にいるんですか?」

望は愛美露出手に質問した。

「私は愛美露出手だ!」

愛美露出手は現実世界で人間として暮らしているので、アプロディーテーと呼ばれると怒り望の服を脱がせようとする。

「ギャア!? ごめんなさい! セクハラですよ!? やめて下さい!」

望は抵抗するが愛美露出手の行動はパワハラも含まれる。

「私は邪悪な気配を感じたので、女神たちで現実世界を守りに来たのだ。」

本当は女神たちでバカンスに来ただけである。

「おお! 現実世界に来ても女神としてお仕事をされているとは、さすがアプロディーテー様!」

望は自分の主が女神の中の女神で良かったと感動した。

「だから! アプロディーテーと呼ぶなと言っている!」

再び愛美露出手は望の服を脱がしにかかる。

「ギャア!? ごめんなさい! 脱がさないで下さい!?」

望は愛美露出手に服をはぎ取られないように必死に抵抗する。

「な、何をやっているんですか!?」

そこに月の女神セレーネーが人間の姿になった新任教師の背霊寝が現れる。

「よう!」

愛美露出手は笑顔で迎える。

「た、助けてください!」

望は窮地に女神を見たようだった。

「じゃ・・・じゃ・・・邪魔をしてすいません!?」

背霊寝は美人女教師と男子転校生の禁断の愛の現場を見て、自分が邪魔をしてしまったと思わず謝ってしまった。

「背霊寝、何のよう?」

愛美露出手はやって来た背霊寝に要件を聞く。

「あの・・・私、新任教師なんですが、どうして食堂で月見うどんと月見団子を製造販売しないといけないんですか? 月の女神なのでSF科学教師でカッコイイ設定の方がうれしいんですが・・・。」

背霊寝は自分の待遇改善を要求してきた。

「え・・・。」

望は背霊寝の待遇を聞いて言葉を失った。

「背霊寝は新任教師なんだから、雑用からやってもらわないと、先輩教師の女神たちから苦情がでるだろ。今度、ノーベル化学賞が受賞できるメイクしてあげるから、歯科検診の手伝いをやって来てよ。」

愛美露出手は背霊寝を説得する。

「は、はい。行ってきます。」

仕方がなく背霊寝は歯科検診のある保健室に向かう。

「まったく新任教師の指導は面倒臭いな。」

愛美露出手の本音である。

「アプロディーテー様も大変なんですね。」

望は主の気苦労を心配する。

「だから! 本名で呼ぶなと言っている!」

三度、愛美露出手は望の服を脱がしにかかる。

「ギャア!? 私の純潔が怪我される!?」

こうして望と愛美露出手は、愛と美の女神アプロディーテーと、その化身としての話し合いを終えた。



愛美露出手先生の保健の授業中。

「愛神、服を脱げ。」

授業の内容は男の子の体を調べようというものだった。

「嫌です。」

望は真顔で教師に反抗する。

「私は教師だ。学校の中では絶対的支配者なのだ。その私に歯向かうというのか? いいのか? 通信簿に煙突が並ぶことになるぞ。」

愛美露出手は望を脅しにかかる。

「煙突が怖くて、教師に歯向かえるか!」

望は男らしく教師に宣戦布告する。

「時神。」

「はい。なんですか?」

「おまえも連帯責任だ。」

愛美露出手は望のウィークポイントを理解している。

「ええ!? なんで僕が!?」

巧はとばっちりを受ける。

「脱ぎます。脱ぎますから、巧くんはお許しください。」

弱点を突かれた望はあっさりと白旗をあげた。

「失礼します。歯科検診の時間です。」

その時、歯科医師の助手がパンダを連れて、歯科検診を順番だと呼びに来た。

「ちい、運のいい奴め。」

愛美露出手先生は悔しがる。

「ラッキー! 巧くん! 私たち助かったんだよ! 良かったね!」

望は巧に抱きついて喜ぶ。

「うわあ!? 抱きつくな!? おまえはホモか!?」

素直に喜ばない巧くん。

「それにしても、背霊寝の奴はどうしたんだ? 歯科検診の雑用を命じたのに?」

愛美露出手は新任教師の背霊寝に歯科検診の手伝いをしていると思っていたが、歯科助手が教室まで呼びに来たので、背霊寝はサボっていると思った。



歯科検診をやっている保健室にやって来る。

「1年愛組です。美代先生よろしくお願いします。」

愛美露出手は自分の暮らすの生徒を連れて保健室にやって来た。恐ろしいのは愛美露出手の担当するクラスが1年愛組に決まった。おまけに散々だった高校名は渋谷塚高校である。

「はい。お待ちしていましたよ。愛美露出手先生。」

白衣を着た歯科医師の美代先生が笑顔で迎えてくれる。

「すいません美代先生。新任教師に手伝うように言ったのですが、ここにも背霊寝がいない。やっぱりサボりだな。」

愛美露出手は保健室を見渡しても背霊寝がいないことに気づいた。

「愛美露出手先生。始まりに設定を説明する会話ばかりや、作品が変わってもヒット作の後追いの同じ内容ばかりでオリジナル性がなくて、飽き飽きですよね。」

美代先生は今後の展開を語り始める。

「そうなんですよ。見る価値が無いのばかりで困っていま・・・す!? 美代先生!? どうしてそれを!?」

愛美露出手は美代先生が望との話を知っているので驚いた。

「こんなのはどうですか? 歯茎の標本の虫歯の穴の中に女神を入れてCR(樹脂)で固めて閉じ込めてコレクションにするというのは?」

美代先生は歯茎の標本を手に持って見せる。

「みんな!?」

他の女神たちが歯茎の標本に閉じ込められていた。

「愛と美の女神アプロディーテー! あなたも歯茎標本に閉じ込めてやる! ティース・プリズン!」

美代先生が禍々しい邪悪オーラを放つ。

「おまえ美代先生じゃないな!? しまった・・・!?」

愛美露出手は美代先生の必殺技ティース・プリズンを食らってしまった。

「いや~、愛と美の女神アプロディーテーは歯茎の標本に入っても美しいな。」

美代先生は綺麗な歯をコレクションできて嬉しかった。

「アプロディーテー様!?」

望は主が歯茎標本に閉じ込められるのを見てしまった。

「な、な、なんなんだ!?」

他の生徒は一目散に逃げたが、巧はビビって動けなかった。

「なんだ? おまえたちは?」

美代先生は逃げ出さない巧と望を見て不思議に思う。

「私は愛と美の女神アプロディーテー様の化身! ヴィーナスだ! アプロディーテー様を解放しろ!」

ヴィーナスは望の姿で決める。

「おい!? バカなことを行ってないで、僕たちも逃げよう!?」

巧は望に逃げるように言う。

「そうだ。逃げていれば死なずに済んだのに。最近の若者は将来に悲観して自殺希望者が多いとは聞いていたが、本当に困ったものだ。」

美代先生は呆れて両手をあげ、お手上げポーズをする。

「アプロディーテー様を置いてはいけません!」

望は主を助けようと必死だった。

「そんなに死にたければ殺してやろう! ティース・マリオネット!」

邪悪オーラを放つ美代先生が意思の無い歯科助手とペットのパンダを操り人形のように扱う。

「マカロン(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「キュル(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

歯科助手とパンダが巧に襲い掛かろうとする。

「うわあ!? 助けて!?」

巧は助けを求める。

「私の巧くんに触れるな!!!」

激怒する望は女神の化身オーラを放ち、両手に女神パワーを集める。

「愛と美の一撃! イヒ!」

望は右手で歯科助手を左手でパンダを殴りつけ地面に叩きつける。

「・・・。」

歯科助手とパンダは気を失って沈黙する。

「ギャア!?」

巧くんは望の行動を見てビックリする。

「巧くん!? 大丈夫!?」

望は笑顔で巧みに尋ねる。

「お願いだ! 僕は殴らないでくれ!? 南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏!?」

巧は望に怯えた。

「あのね・・・。」

望は大好きな巧くんは絶対に殴らない。

「く、く、クソ!? おまえ、ただの生徒じゃないな!? いったい何者だ!?」

邪悪オーラを放つ美代先生は望の正体に興味を持つ。

「私は愛と美の女神アプロディーテー様の化身! ヴィーナスよ! 邪悪オーラを放つおまえは何者だ!?」

望は邪悪オーラを放つ美代先生を問い詰める。

「私はトアル異世界のある方の邪念の一部です。」

邪悪オーラを放つ美代先生に憑いているのは、トアル異世界のある方の邪念の一部だった。

「邪念!? トアル異世界のある方って、誰よ!?」

望は邪念に黒幕のことを尋ねる。

「答える義理はない。だが、おもしろそうだから一つだけ教えてやろう。ある方は女神狩りをお命じになった。」

邪念は面白そうに言う。

「女神狩り!?」

望は邪念から女神狩りを行うと聞いて驚く。

「そうだ。ある方は忌々しい女神たちを捕まえて連れて来いとおっしゃられている。この学校は女神がたくさんいてラッキーだったよ。ある方の私への評価も見直されるだろう。ハッハッハ!」

邪念は絶好調だった。

「女神狩りなんてさせるもんか! あんたの思い通りになんかならない! すぐにアプロディーテー様と女神たちを臭い歯茎の標本から解放しなさい!」

望は邪念に捲し立てる。

「嫌だね。おまえの弱点は知っているぞ。」

邪念は望の弱点を知っている。

「ギク!?」

そこを突かれると望は弱かった。

「そこの人間の男だ! 食らえ! ブラック・ティース・ミサイル。」

巧に向けて虫歯が飛んでいく。

「うわあ!? 死ぬ!?」

巧は虫歯が当たって殺されるというカッコ悪いと思った。

「私が巧くんを守る!」

望は巧の前に立ち、望は虫歯から巧をかばうとする。

「ギャア!?」

望は邪念の虫歯ミサイル攻撃を受けて吹きとばされてしまう。

「望!?」

巧は望に駆け寄り腕で抱きかかえる。

「う・・・嬉しいな・・・望って・・・呼んでくれた。」

死にかけの望は巧に名前を呼んでもらえて幸せだった。

「そんなことはどうでもいい!? 望!? 大丈夫なのか!?」

巧は望のおかげで無事だった。

「や・・・約束通り・・・巧くんを・・・守れて良かった。」

望は巧をかばって大ダメージを受けたが、巧を守れたのが嬉しくて笑っていた。

「僕なんかをどうしてかばうんだ!?」

巧には自分なんか命をかけてまで救う価値は無いと思っていた。

「た・・・巧くんは・・・私に・・・上着をかけて・・・くれたから。」

望は巧に初めて人間の優しさに触れた。

「う、上着!? まさか!? おまえはあの時の痴女!?」

巧は裏原宿であった痴女のことを思い出した。

「う・・・嬉しかったな・・・巧くんに・・・出会えて。」

望は自分の気持ちを巧みに伝える。

「お取込み中のお二人さん! ラブシーンが長いんだよ! 二人一緒に殺してやるから天国で仲良くしろ!」

痺れを切らした邪念がミサイル発射準備を開始する。

「逃げて・・・巧くん。」

望は巧に逃げるように言う。

「バカ野郎! 望を置いて、一人だけで逃げれるか!」

死の迫る極限状態で巧と望は心を通わせる。

「巧くん・・・顔を近づけて。」

望は最後に巧にお願いをする。

「望。」

巧は望がキスをおねだりしていると思い、どうせ死ぬならと顔を近づけた。

「カキカキ。」

望は巧の顔に化粧をし始めた。

「え!?」

さすがの巧も、これには意表を突かれて戸惑う。

「私は愛と美の女神アプロディーテー様の化身です。アプロディーテー様は美しい化粧をするのが大好きな愉快なお方です。私も少しなら化粧ができますので、私の力を巧くんに与えるので、巧くんが邪念を倒してください。」

望は説明しながら巧の顔にファンデーション、チーク、淡いリップクリームを塗り綺麗な顔立ちに整えていく。

「こ、これは!? 金ピカに輝いている!?」

巧の顔はメイクで綺麗な顔になり、全身から金色のオーラを放っている。

「ゴールド・メイクです。私は金星も司っているので、金色の力を使うことができます。金色の力は巧くんが望めば剣で弓でも巨大ロボにでもなり、巧くんを強くしてくれます。」

望は虫歯ミサイルのダメージに耐えながら巧に金色のご加護を巧みに説明する。

「僕が望めば強くなる・・・。」

目の前で起こっている出来事に戸惑い半信半疑の巧。

「どうかアプロディーテー様たち女神様を助けてください。」

パタっと説明を終えた望は気絶して倒れ込む。

「望!? 大丈夫か!?」

体を揺らしても望は目を覚まさなかった。

「僕があいつを倒す・・・。」

巧はそっと立ち上がり邪念に憑かれた禍々しい歯科医師を見る。

「おまえも虫歯塗れにしてやる!」

邪念は虫歯ミサイルを再び撃とうと発射準備をする。

「詳しいことは分からないけど、こいつだけは許せないことだけは分かる。」

巧は望を傷つけた邪念だけは断じて許せない。

「僕がおまえを倒す!」

巧が放つ黄金のオーラがバスターランチャーの姿に実態化したかのように姿を現す。

「なに!? 金色のバスターランチャーだと!?」

邪念は巧が剣でも弓でもなく、ゴールドバスターランチャーを描いたことに驚く。

「消えて無くなれ!!!」

望は照準を邪念に合わせ、黄金の光を発射口に集約し引き金を引く。

「ギャア!?」

放たれた金色の強大なエネルギーは歯科医師に命中し邪念を消し去る。

「僕が倒した・・・。」

巧は自分にこんなことができるなんて思いもしていなかった。

「はあ!? 望は!?」

巧は望のことを思い出し望の元に駆け寄る。

「望!? 望!?」

巧は望と呼びかけるが望は目を覚まさない。

「望!!!」

巧の悲痛な叫び声が響き渡る。

「寝てるだけだ。」

涙を流している巧に後方から女の声が聞こえてくる。

「愛美露出手先生!?」

邪念が倒されたことにより、歯茎の標本から女神たちが解放された。

「虫歯如きで死ぬもんか。そいつは私の化身だからな。」

愛美露出手先生は自分の化身のことを信頼している。

「ん!?」

巧は望の胸に耳を当てる。

「本当だ!? 生きてる!?」

ドクンドクンっと心臓の音が聞こえた。

「望が生きてる! よかった!」

巧は望が生きていることを喜んだ。

「さあ、怪我人以外は出て行ってくれ。治療の邪魔だ。」

愛と美の女神アプロディーテーの愛美露出手先生は保健の先生も兼ねている。

「私たちも治療してください。」

女神たちは愛美露出手を慕っている。

「はあ・・・面倒臭いな。メイクしてあげるから授業に戻りなさい。」

愛美露出手は手際よく女神たちの崩れたメイクを直していく。

「は~い。愛美露出手お姉さまの言う通りにしま~す。」

綺麗な顔になった女神たちは愛美露出手に服従して、保健室から去って行った。

「ん? 時神、おまえも授業に戻れ。」

巧は望の側を離れていなかった。

「嫌です! 僕は望の側にいます!」

巧は自分をかばって傷ついた望の側に痛かった。

「プチ。愛の一撃!」

愛美露出手は巧を廊下に殴り飛ばした。

「ギャア!?」

巧は保健室から殴り出された。

「こいつは私が直してやる。安心して教室に戻れ。」

愛美露出手のさり気ない優しさだった。

「ぼ、僕も・・・直して・・・。」

廊下には愛美露出手に殴り飛ばされ血塗れの巧が残された。



保健室。

「怪我人は4人。いや、3人と1匹か?」

愛美露出手には怪我人は愛神望、歯科医師の美代先生、歯科助手のみなみちゃんの3人と、パンダのパンパンの1匹であった。

「美代先生は欲深いからな~。助手とパンダが可哀そうだ。」

歯科検診の医師・・・もう出番はないな。あとは女子会か・・・そうだ!ウルトラCで保健の先生でもやってもらおうか。

「まあ、放っておけば自然治癒するだろう。」

最初から治療する気はなかったみたいだ。

「イヒヒヒヒ。」

愛美露出手は望を見てニヤニヤする。

「それにしても化身というのは放置していても勝手に育つものだな。イヒ。」

愛美露出手は自身の化身の成長を喜んだ。

「いかんいかん。愛と美の女神の私が下品な化身の笑い方がうつってしまった。まったく困ったバカ化身だ。」

愛美露出手は首を横に振り反省する。

「そうだ! こいつをしばらくの間、男の体のままで女に戻れなくしておこう。面白くなるぞ! イヒヒヒヒ!」

一度、癖になるとなかなか治らないものである。

「そう、私は美しくなければいけないのだ! ハッハッハ!」

愛美露出手は今日も絶好調。



下校時間。

「望。」

学校から出てきた望を校門のところで巧が待ち伏せしていた。

「巧くん!?」

望は巧に正体を知られてしまったので、巧に避けられると思っていた。

「望、一緒に帰ろう。」

巧は望と共に帰ろうと誘う。

「う、うん。」

望は気まずいながらも了承する。



「・・・。」

2人は自宅への帰り道、なかなか言葉をかけれなかった。

「望。」

意を決して巧は立ち止まり、望に声をかける。

「はい。」

望は巧が言葉をかけてきてドキっとする。

「ぼ、僕は何も見なかった。」

巧は真意は分からないが、自分は何も見ていないと望に伝える。

「え?」

巧の予想外の第一声に望は戸惑う。

「僕は望に女装癖があることは誰にも言わないから安心していいよ。」

巧は裏原宿で見た望が羽衣を着て町中を徘徊していたことは誰にも言わないと言う。

「女装癖!?」

その言葉に私は元が女なんですけどと言いたくなった。

「ほら、うちの高校は歌劇団部とかあってふざけているから、今日の出来事もどこぞの演劇サークルがVRのゲームか何かで仮想世界を体験させたに違いない。」

巧は必死に現実逃避をして自分に言い聞かせているように見えた。

「あの・・・巧くん。実は私は愛と美の女神アプロディーテー様の化身なんだ。」

我慢できずに望は真実を告白する。

「う、嘘をつかなくていい。女神の化身って言ったって、おまえは男じゃないか?」

巧には望の姿は完全な男に見える。

「分かった。女の姿に戻るよ。元の姿に戻れ。」

望はアプロディーテーの化身である女の姿のヴィーナスの姿に戻ろうとした。

「何にも変わらないじゃないか。」

しかし望は女の姿に戻れなかった。

「ええ!? どうしてだ!? 戻れ! 戻れ!」

望は男の姿のままだった。

「もういい。望、帰ろう。来ないなら置いて行くよ。」

巧は望が照れ隠しに必死にお道化ている姿に同情したかのように声をかけた。

「ええ!? 待ってよ!」

望は巧の後を慌てて追いかけて、2人で仲良く歩き始める。

「イヒ。」

望は巧を嬉しそうに見つめながら歩く。

「なんだよ? 気持ち悪いな。」

巧は望を不気味がる。

「望って呼んでくれた。巧くんが望って呼んでくれた。嬉しいなったら嬉しいな!」

望は巧に名前を呼んでもらえて嬉しかった。

「おまえ本当にホモかよ!?」

巧は望を疑いの眼差しで見る。

「巧くん内緒だよ。2人だけの秘密だからね。」

望は巧と2人だけの秘密を持ってて幸せだった。

「おまえが化粧大好きの女装癖のオカマ野郎だってことは、こっちが恥ずかしくて言えない。」

巧は望のことを変態だと思っている。

「だから私は女だって!?」

望の訴えは巧には聞こえなかった。



トアル異世界のお城。

「なに!? 女神に負けただと!?」

玉座に座っている邪悪なるある方は邪念から報告を聞いて驚く。

「申し訳ありません! 現実世界に女神がやたらと共同生活している学校がありまして・・・。」

邪念は必死に弁解をするが女神の化身に負けたとは恥ずかしくて言えなかった。

「いい訳は結構。ミッションに失敗した者は死あるのみだ。」

邪悪なるある方は失敗した者を許さない。

「お許しください!? もう一度チャンスをいただければ必ずや女神を捕えてきます!?」

邪念は頭を下げて必死に拝み倒す。

「ほお、まだ戦意があるというのか? おまえにチャンスをやろう。」

邪悪なるある方は邪念にチャンスを与えるという。

「ほ、本当ですか!?」

邪念は驚き喜ぶ。

「いでよ。悪夢。」

邪悪なるある方は簡単に魔方陣を描き悪夢を召喚する。

「ギャア!?」

そして邪念に召喚した悪夢を合成した。

「おまえはナイトメアと名乗るがいい。」

邪念は気体から黒い馬の実態を得た。

「ありがとうございます。これで女神たちを捕えてみせます。」

悪夢のナイトメアは自信に満ちていた。

「いけ! ナイトメアよ!」

「はは!」

邪悪なるある方の号令にナイトメアは去って行った。

「これで女神は私のものだ。ハッハッハ!」

邪悪なるある方は、どうしても女神を手に入れたかった。



現実世界の巧くんの家の夜。

「ありがとう! 望くん!」

食卓で食事中、巧の母親は望に感謝した。

「望くんがいれば巧の不登校が治るな! ハッハッハ!」

巧の父親も上機嫌だった。

「はあ・・・。」

巧は両親の喜ぶ顔を見てため息を吐くしかできなかった。

「巧くんはどうして不登校だったの?」

望はなぜ巧が不登校だったのかを尋ねる。

「学校に行っただろ。」

「うん。」

「担任の愛美露出手先生を始め、うちの学校の先生はどこかズレてる! おかしな先生ばかりだ! おまけの歯科医師の先生も助手もパンダもおかしかった!」

巧の不登校の理由は学校の環境にあった。

「アハハハハ・・・。」

望は笑うしかなかった。

「それに生徒もおかしい奴がいっぱいだ。どうして学校に行かないといけないのかが分からなくなる。」

巧は意外と一般常識があるのかもしれない。

「仕方がないよ。だって高校生だもん。」

望は巧を慰める。

「そういうものかな。」

巧は渋々だが納得する。

「あら、巧は望くんのいうことだと素直に言うことを聞くのね。」

巧の母親は巧と望の2人をニタニタ見る。

「な!?」

巧は母親の私的に驚く。

「お母さま! ナイスです!」

望は巧の母親のことが大好きになった。

「そういえば、望くんは髪の毛を下ろしていると女の子みたいに可愛いし、背丈も巧と丁度お似合いだ。」

巧の父親も巧と望はお似合いだと思った。

「お父さまと呼ばせてください!」

望は巧の父親のことも大好きになった。

「ハッハッハ!」

望と巧の両親は仲良しになった。

「なんなんだ!? この家族は!?」

巧は頭を抱えるしかできなかった。

「そうだわ! 望くんにお化粧をして、スカートでも履かせたら可愛い女の子になるんじゃないかしら。」

巧の母親はいいところに気がついた。

「いいんですか!?」

望は女装することに好意的だった。

「おもしろそうだね。」

巧の父親も楽しがっていた。

「もう!? なんなんだ!? この家族は!?」

巧は叫ぶしかできない。



望、ただいま女装中。



「できたわよ!」

巧の母親が望の女装完成を告げる。

「ど、どうですか?」

女の子になった望が現れる。

「望くん、かわいいよ。」

巧の父親も大絶賛する。

「ありがとうございます。」

望は褒められてうれしそうだった。

「ふん。」

巧は望をチラッと一瞬だけ見るが、直ぐに視線を逸らす。

「巧くん、どう? 私、かわいい?」

女装して女になった望は言葉遣いも女の子らしかった。

「べ、別に。」

巧は望には女装癖があることを知っているので可愛いのは当たり前だと照れを隠した。

「ひ、酷い!? 私は巧くんに可愛いって言ってもらいたかったのに!?」

望の乙女心を巧は理解していない。

「え!?」

巧は望の反応に戸惑う。

「ウエエエ~ン! 巧くんのバカ!」

ショックで望は大声で泣き始めた。

「ああ!? 巧が望くんを泣かせたわ!?」

巧の母親が巧に聞こえるように言う。

「ごめんね、望くん。うちのバカ息子は女性の扱い方に慣れていないから。」

巧の父親は望に息子の言動を怒る。

「誰がバカ息子だ! 望も男なんだから、いつまでも女の格好をしてないで服を脱げよ。」

巧は無神経に望に元に戻るように言う。

「ウエエエ~ン! 巧くんのセクハラ!?」

さらに望は泣いた。

「ああ!? まるで僕が悪いみたいじゃないか!?」

巧は罪を重ねた。

「さあ、望くん。巧のバカは置いといて、今日はお母さんと一緒に寝ましょう。私、かわいい娘が欲しかったのよ。」

巧の母親は女装した望がお気に入りだった。

「不愛想な息子は置いておいて、望くんを真ん中にして川の字に布団を引いて寝よう。」

巧の父親も親子で眠るのが夢だった。

「ウエエエ~ン! お父さま! お母さま!」

泣きながら望は巧の両親と寝室に消えていった。

「なんなんだ!? この家族は!?」

巧が引きこもりになったのは家族に原因があったみたいだった。

「本当に何なんでしょうね? 人間って。」

「人間って生きていくのが大変みたいドワ。」

巧に同調する2人の声が聞こえてきた。

「そうなんだ。人間って大変なんだよ・・・って!? おまえたちは何者だ!?」

巧は食卓に現れた者たちに正体を尋ねた。


つづく。

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