第8話 討伐とセイレーンと彼
港町は冒険者たちや騎士やカードキャプチャーで賑わっていた。昨日までセイレーンに怯えていてひっそりとしていたらしい。
はじまりの町からこの町のギルドまで転移できた。
港町のギルド長に「他人が生命力を削った幻想生物の横取り禁止」や怪我をした場合はギルド内の救命隊がいることなどの説明がされた。
救命隊の医者たちは「癒し」のカードを持っている。他にも多くの魔力回復など安くで提供してくれるそうだ。
今回はBランク以上の冒険同盟とカードキャプチャー同盟しか参加できないが、見物も多かった。神界出身のカードキャプチャーのカードを見るためだ。今回は神界出身の始めての合同戦闘だ。
健一が陸上組と海上組に指示を出した。同じ同盟内で仲間を助け合う。お互いに後で貢献度によって獲物の山分けをするなど。
健一がHSRワイバーンを呼んだ。見物者たちが感嘆の声を出す。続けて純君がSRグリフィンを呼ぶ。サトコもグリフィンを持っている。もうすぐでHSRに覚醒できそうだ。
新人の男の子がハーピーを呼んだ。
マサがユニコーンを呼んだ。サトコは羨ましそうにユニコーンを見た。ユニコーンのイベントはクリスマスシーズンでデパートは忙しくてほとんどゲームができなかった。
(ユニコーン、欲しいなあ。ユニコーンの住むと言うエメラルド海峡にいつか行こう)
「我に束縛されし、共に共鳴しようと名で縛られた我が幻想生物、ドラちゃん、我の元に現れよ」
アイスドラゴンがサトコの前に現れた。他の幻想生物たちもドラちゃんを見て一瞬怯えたが後は平然としている。
幻想生物は本当に不思議な生物だ。実態を持たないのにそれぞれの力量を本能で感じ取っているようだ。ゲームの画面越ではそんなことにも気づかなかった。まだまだサトコの知らないことが多い。ゲームじゃない、本当の世界なんだ。
もし怪我したらどうしよう、と今更ながら恐怖で足がすくんだ。
「さすがSA-TO。レジェントのアイスドラゴンを見れる日が来るなんてなあ。
SA-TO、俺はおまえの近くにいる。もしなにかあったらすぐにログアウトしろ。俺たちはこの世界の人間じゃない。感覚があるから生身と勘違いしやすいが、俺たちはバーチャルだ。怪我をしても地球の本体は大丈夫だ。
ただMPとHPに気をつけるんだ。
死にはしないがしばらく意識が飛ぶらしい。
じゃあ、出発するぞ」
次々と空の幻想生物が空に飛び立つ。
健一がワイバーンにヴァーレヒなどの炎系ヴァレストのスキルを詠唱していく。マサや純君と新人君が風系ウインドのスキルで海上にいる魔獣や幻想生物たちに向かって攻撃した。
セイレーンは見当たらない。
サトコは次々と魔獣を凍らす。それをマサたちが風系で切っていく。セイもサトコの横にいる。
魔力の多い健一たちも数枚のカードを出して戦っている。サトコは器用な方ではない。だからセイとドラちゃんで手一杯だった。
「氷裂風塵リュシレーン」
空気を凍らして鋭い氷の針が幻想生物シャークに当たる。
「!! 結界を敷け!」
健一さんが仲間に叫ぶ。健一も純君も結界スキルを持つRクリスタリアの生命力がなくし失っている。だからサトコは同盟に自分のクリスタリアをあげた。同盟所有のカードはメンバー全員使用できるが効果はそれぞれの魔力に比例する。
セイレーンの歌声が聞こえる。結界は害のあるものを拒む。歌は聞こえるがセイの結界で、ただの歌にしか聞こえない。もし結界がなかったら眠りについていただろう。
セイレーンたちが屯っている岩に移動する。そして次々と攻撃をしたり、生命力が弱った幻想生物に向けてカードを当てて詠唱する。
『幻想を彷徨う魂よ。我に従い永遠の命から解き放せ』
SRカードの中に次々とセイレーンたちが写しだされる。
「どうして彼女には攻撃が効かないんだ!」
健一さんの指す方角に輝く美しいセイレーンがいた。彼女の歌は悲しく綺麗だった。
「我に束縛されし、共に共鳴しようと名で縛られた我が幻想生物、ユウちゃん、我の元に現れよ」
幽霊海賊を呼び鑑定をしてもらう。彼女はHSRだ。ユウちゃんが鑑定スキルを発動した時にテレパスが届いた。彼女の怨念が流れてきた。怨念の画像は害にならないから結界は効かない。
「SA-TO! どうしたんだ! 大丈夫か!」
「うん、鑑定スキル使ったら彼女がテレパス送ってきた。彼女の怨念が頭に流れて戸惑っただけ。私に彼女ちょうだい」
彼女を慰めたい。彼女は男に捨てられて妊婦だった。慈悲に溢れた涙を流すセイレーンを描きたい。
「ああ。俺はおまえの護衛をする」
「ありがと」
「おう。もちろん俺たち、パートナーだろ」
えっ? いつパートナーになったんだろう。でもこうして健一さんと連帯して戦うのは楽しかった。
セイレーンはもともとそこまで強い幻想生物ではない。敵を眠らして狩りをする。だからHSRだけれどすぐに戦いは終わって、Lカードを彼女の前に掲げた。
『幻想を彷徨う魂よ。我に従い永遠の命から解き放せ』
「えっ!?」
サトコの反対側にアリサがサンダーバードに乗ってカードをセイレーンに向けて詠唱を唱えていた。
「横取りするなあーー」
健一さんの怒鳴った声がセイレーンの歌声に変わって辺りに響いた。
『幻想を彷徨う魂よ。我に従い永遠の命から解き放せ』
サトコもアリサに遅れを取ったが詠唱を唱えた。セイレーンはサトコのLカードに入った。
「な、なんで! 私が最初に詠唱を唱えたでしょ! どうしてBBAのカードに入ったのよ!」
「そのセイレーンはHSRよ。だからSRカードでは捕まえられないわ」
その後はアリサに罵倒されて散々だった。健一さんたちもアリサに違反だ、と口論していた。
「もういいよ。セイレーンは私がキャプチャーできたし。
もうそろそろログアウトしていい。明日仕事でマグロの解体ショーがあって早く寝たいから」
怒って顔を真っ赤にしている健一さんを引っ張って小言で話した。
「えっ? マグロの解体ショー、それって◯◯◯デパート?」
「うん」
「あっ、俺も明日出張で行くところじゃん」
「でも健一さんは東京だよねえ?」
以前そんなことを聞いたことがある。
「地元はそこだよ。ほら、俺たちの同盟って地元スローガン使っているんじゃん」
やっぱりそうだったんだ。と言うことはアリサも地元民かな? バッタリ会わないよね。不安な気持ちが溢れた。
「俺は東京の本社のイベント企画部で明日は出張。そうで解体ショーの後、ご飯食べない?」
「ねえ、リアル知らないじゃない。私、BBAじゃない?」
リアルで会うのは嫌かも。
「いい、いい。俺だって今年三十になったし。俺のかーさんもオンラインゲームしているし。SA-TOがおばあちゃんでもいい」
「そっ、じゃあ、デパートで私を見つけられたらご飯に行こう」
◇
マグロの解体ショーは大成功だった。健一さんのことなどを考える暇なくお客さんの相手をしていた。もちろんサトコにはいつものクレームおばちゃんに捕まって一時間無駄にしたけれど。
他の若い社員たちは本店から来た社員たちがカッコいいと盛り上がっていた。
(健一はカッコいいんだ。あっ、でも他にも何人か来ているって言うからどうなんだろう)
「SA-TO?」
サラサラの艶のある前髪が目に入った。サトコが見上げないと顔が見れないくらい背の高い男の人が目の前に立った。話しかけた人はイケメンだ。彼はもう一度、胸の名札を見てサトコの顔を見て聞いた。
「み~つけた。アバータとそっくりですぐに分かった。健一だよ。ユーザー名と本命一緒」
『あっもしもし、ミキちゃん。聞いてあのBBAがー、アリサのー、セイレーン盗んで散々だったの~』
近くからバカでかい声が聞こえた。サトコと健一は顔を引きつりながら声の方を見た。
「いつもクレームするおばさん、お客さんだ……」
その後は健一さんと大笑いして食事をした。
OLは幻想生物を捕まえて美麗カードを作っています shiki @ShikiAki
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