第4話 トロールと錬金師と帰還

 元気に飛び回るパックに連れられて庭を見て回る。パルルンの木が縄文木のように太くなっていてびっくりした。これってLカードバンバン作れるんじゃない?


 でもL無カードはそんなに使う機会がないからたくさん持っていても無意味だ。一番いいのがSRとR。Rカードは一般人たちが手軽に購入する。もちろん無カードも幻想生物カードもどっちもだ。


 とりあえずパルルンの木を一本切る。

「我に束縛されし、共に共鳴しようと名で縛られた我が幻想生物、トロール、我の元に現れよ」

 

 空中にサトコの背丈の二倍のトロールが姿を現した。


「トロちゃん。ひさしぶり。このパルルンの木を倒してちょうだい」

「ぐわ~」

 トロちゃんはHRだ。もともと無口な方で全然会話をしない。森で役にたつカードで初期のころから持っている。

 それに季節ごとにトロちゃんに花が咲いて、ごっつい顔なのにかわいい花がついて萌てしまう。モエモエ。

 トロちゃんが木をあっと言う間に倒して木屑にしていく。サトコは木屑をインベントリーに移す。

「帰りし我が友に安楽の眠りを」


 トロちゃんをカードに戻してアトリエの建物に入る。

 アトリエには釜に火も灯されていないけれど、二百年の間パックが毎日掃除をしていてくれて埃がひとつも見つからないくらい綺麗だった。


 釜にN火トカゲで火をつける。薪はすでにパックが中に入れてくれていた。

 大鍋を十個用意して木屑を中に入れた後に、N水河童カードでそれぞれの中に水を付け足す。『HRオシャベリ錬金師』を呼んでカードにしてもらう。


 はっきり言ってこの錬金師うざい。中世的な顔をしているイケメンだけれど、うるさい。初期に支給されるN錬金師を育てた結果がHRオシャベリ錬金師になった。


 やっぱり名前をスネちゃんにしたからいけなかったのだろうか。ついついアイスドラゴンに当たって浮かれていて、あの四次元ポケットのお仲間シリーズにしようと。ただ名前を考えるのが面倒だっただけなんだけれど。

 スネちゃんの他にも、心の友よ~ジャイちゃん(鍛冶師のドアーフ)、しずちゃん(麗しき織姫)、のびちゃん(料理人ジン)がいる。巨人のジンは普通に人の食べる料理をしたり、回復ポーションなどの薬を作る。

 結構普通サイズに縮んだのびちゃんは、ハゲの料理人でどこにでもいそうなオヤジだ。


 スネちゃん、喋る喋る。サトコがなにも言わないのに、二百年眠っていたくせに「疲れた疲れた」と文句タラタラ。絶対に他の錬金師捕まえてスネちゃんをジャイちゃんの肥やしにするぞ。


 カードを駆使する時には、サトコの魔力が使われる。パックやセイのように常時使われるカードには魔力回復のスキルをつけている。

 このスキルをつけるにはお金も素材も高くつく。

 足りない素材をショップに何度も足を運んで揃えた。


(うん、私も少し疲れたかも)


 ゲームの時には感じなかった疲労が、スネちゃんが次々と乾燥スキルを使いカッタースキルを使う度に自分の中にある力が無くなっていく。

 あらためてこれが魔力なんだと思った。


 ワークテーブルの上に積み重なれていくカードをパックが器用に仕分けしていく。

 結果、Nカード550、Rカード324、Sカード260、Lカード8できあがった。Hの無カードはない。Hカードはそれぞれを合成した時にできる。


「なかなかのできだね」

「もちろん俺様のおかけですよ。ほんと、俺のボスは人使いが荒い。見て、俺疲れてお肌にシワができそう。お腹すいたからNスライムちょーだい」


 いままで一本のポロロンの木でこんなにカードができたことはない。まあ二百年成長してデカくなったからかもしれないけれど、スネちゃんには感謝だ。


「はい、特別に、ちゃら~ん Rスライム。おいしく食べてね」


 スネちゃんにスライムをあげて、インベントリーに戻した。


「お腹すいた」


 帰ってすぐにゲームを開いたからまだ夕飯を食べていない。と言っても家族はサトコが帰ってくる前にいつも食べ終わって一人で食べるんだけれど。

「インベントリーから食事を取りますか? それともジンになにか作ってもらいますか? 永久貯蓄蔵の中に食材はきちんと残っています。

 それとも神界にお戻りになられますか?」


 サトコの護衛を常にして付き添っているセイがサトコに尋ねた。


「えっ? いまなんて言った? 神界に戻るって? もどれるのーー!!??」


「もちろんです。さきほど説明しませんでしたか?」

(してねーよ)


「どうして戻るの?」

「メニューバーからログオフすれば戻れます。

あの、主様、できれば次は二百年もの時を開けることなく早めにお戻りください。もしレノアードに再び戻らないのであれば私たちはこの後誰にも仕える気がありませんので、そのまま消滅する予定です。

 二百年過ぎて私の結界が消えた時に、主様のカードを消滅する権利をください。

 これは仲間たちの意見を聞いて私が代表でお願いしております」


 セイたちはずっとサトコのことを待っていたんだ。

 胸がチクリと痛くなった。


「今回は私の知らないことがあってインできなかったけれど、こっれからちゃんと定期的に来るわ。

 それと、もし私がなんらかの形でこの世界に戻れなかった場合に、すべての権利をセイに譲り渡すわ。


 無限に続く時を生きるレノアード、SA-TOは命じる、SA-TOがレノアードと決別したその時、聖騎士セイにすべての権限を譲れし、SA-TOの所有物を解き放す」


 サトコは契約破棄の呪文と契約の呪文を唱えた。

 レノアードに存在する普通の魔法を唱える。ゲームのプレイヤーたちもギルドや学園で魔法のクラスや剣術のクラスなどに参加して習得したりした。


「セイ、いろいろありがとう。またね」


 またすぐにインするよ、と言う軽い気持ちでメニューバーのログオフフに触れる。


一瞬、目の前が暗くなったから目を閉じる。目と開けると、二十五年間見慣れた天井が目に入った。


「いま、何時?」


 スマホで時間を確認する。帰宅したのが夜の八時だった。いまは八時半。ゲームをしていたのは十分くらいなのに、たしかレノアードではもっと長く時間を過ごしていたはずだ。

 カードを作るのには普通十時間かかる。レノアードでの時間のたつ速さは地球と違うんだ。

 サトコは不思議な気持ちになった。でも一生レノアードの異世界で過ごすつもりはない。

 レノアードと言う異世界が実際に存在していても、サトコにはここが現実だ。いまは仕事が忙しくて彼氏を作る気がしなくても、お見合いでもいいから誰かと結婚して子どもを生む平凡な人生を送るつもりだ。


 テレビを見ている両親のいる居間で、行儀悪く晩ご飯を食べる。

「もー、サーちゃん、キッチンでご飯食べてよ」

「うん。でもそのドラマ、同僚の会話の話題のためにちょっと見とかないと」

 いつものような会話をお母さんとして、お父さんはうんうんと二人の会話に相槌をうっている。


 夕食を終えたころにちょうどドラマも終わった。次回の予告を見た後にお風呂に入った。

 ドライヤーで頭を乾かしながら、スマホのゲームが気になってしかたなかった。でももう一度インしたら今夜は眠れない。その前に出会った幻想生物たちのラフ画を描いた。

 また誘惑でスマホを手に握る前にベットに入った。

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