除夜の鐘

 大晦日、深夜。

 とある寺で、のんびり話している2人。バッグに付けられた、お揃いの小さな白い鶏を模したストラップが揺れている。


「いやー、あっという間に今年も終わりですわね一里間ひとりまさん。どんな年でした?」


「そうですねー。なんか、今年は何にもしてない気がするんですよね……」

 レインコートのフードの中で苦笑する一里間。

「奇遇ですわね。私もですの」

 狗藤くとうが同じような苦笑を返した。


 と。

「コッコッ」

 境内でカラスと遊んでいた鶏のゴールデンエッグが2人の元に駆け寄ってきた。


「ゴールデンちゃん、お友達に今年最後の挨拶はできた?」


「コッ」


「ふふ、良かったですわね」


 ゴォーン ゴォーン


「コッ!?」

 突如として響き渡った、空間を震わせるような大きな音にゴールデンエッグは飛び上がった。

「あはは、びっくりしなくていいんだよ。あれは除夜の鐘っていうんだよ、人間の煩悩を祓うために大晦日につくんだって」


「参拝客もつかせてもらえるんですのよね? 行ってみましょうか」




「おやおや、狗藤さん達じゃないですか!」

 除夜の鐘をつく参拝客の列に並んだら、前の人がそう話しかけてきた。


目井めいさん! 何でしょう、ご無沙汰な気がしますわね!」


「そうですか? まあともかく、来年もできればよろしくお願い致しますね」

 そうして積もる話をしていたら、やがて目井さんの順番が来た。


「よーし! 今年の煩悩をここで全部祓いますよー! 思いっきりついちゃいます! そーれ!」

 目井さんは力いっぱい鐘をついた。


 ゴォーン ゴォーン


「わー! いい音ですね目井さん! ……目井さん……?」




「狗藤さん、明けましておめでとうございます」


「おめでとうございます。今年もよろしくお願いしますの。

 で、あれから半日くらいたって目井さんに会いに行ったんですが、鐘をついた時の振動がまだ残ってて身体からだを前後に激しく揺らし続けてましたの。ヘドバンしてるみたいでしたわ」


「本当、一体どんな力でついたんですかね……」


「コォ……」

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