hot ice cream

「寒いねー、食美はみちゃん」

「寒いねー、デンス(Dens)さん」


 寒空の下。長いマフラー…… に、見せかけた、非口ひぐちの後頭部の口から伸びる長い舌を首に巻き、暖を取りながら帰宅している2人。


「でも首元だけはあったかいねー」


「…… 今更、だけど、気持ち悪く、ない?」


「えー? 食美ちゃんが気持ち悪いわけないじゃん」

 自身の首に巻かれた非口の舌を掴んで笑うデンス。

「……ありがとう」


 そんなこんなで、公園の横を通りすぎようとした時であった。

 冬には似つかわしくない音が聞こえてきた。


 ミーンミンミンミーン ミーンミンミンミーン ミーンミンミンミーン


「え…… 蝉さん早起きしすぎちゃったのかな?」


「まさか…… でも……」


 首を傾げつつ公園に足を踏み入れて、雪のような色の、ボロボロの服を着た背中を見つけた。足元に大きめのバッグを置き、片手に何か短い棒状の物を持ったまま、こちらに背を向けて立っている。


目井めいさん?」


「何、してるんです?」


「………………」


「イヤホン、してる。何か、聴いてる?」


「しかも蝉さんの声、ここからしてるよね?」

 デンスが目井さんの顔の前に出て手を振ったら、ようやく気付いてイヤホンを外した。

「これはこれはお2人さん! どうされたんですか?」


「目井さんこそ…… 音漏れしてたので聞いちゃったんですが、蝉さんの声聴いてたんですか?」


「ああ、これですか。以前夏に録音しておいたのを寒い日に聞けば、夏の暑さを思い出してあったまれるんじゃないかと思いましてね」

 笑顔でそう言って、手にしていた物を一口食べる。


「は、はあ……」


「ところで、食べてる、それは、何ですか?」


「おや、これに目をつけるとはお目が高い。

 先日開発した新しいアイスクリームです。寒い日でもアイスが食べたい時ってあるでしょ? でも食べると余計に寒くなってしまうから食べられない、さあどうしよう…… というわけで作ってみたんです。

 見た目は溶けたりもしていない普通の棒付きアイスですが、温度は温かいんです。ちょっと手をかざしていただけます?」


「ん…… 本当だ! ホッカイロみたい!」


「これなら寒い日でも安心して食べられますし、溶けないので持ち歩きもできます。我ながらいい発明だと思います。ちなみにこれはバニラ味です」


「いいと、思います。美味しそう……」


「良ければ食べてみます? 味も色々あるんです」

 目井さんが足元のバッグを開けると、中にはぎっしりと色とりどりのアイスが詰め込まれていた。


「わー、いいんですか!」


「今、他の人も、いないし、いただこう!」


 非口はいちご味を、デンスはメロン味を、ノリノリで口にした。




 途端、2人は静止した。


「どうしました?」

 と、目井さんが尋ねたのと、2人がのたうち回り出したのは同時だった。(ちなみに、そんな状況でも舌は首に巻いたままだった)


「本当にどうしました!?」


「どうしたじゃないです! これ、これ……」

 口元を抑えながら話すデンスの言葉を継ぐように、後頭部を抑えた非口が叫んだ。

「甘いー! 甘すぎるよー! 脳が、溶けそう! 甘いー!」


「甘すぎる……? ああなるほど、舌の上にある甘みを感じる受容体は、冷たい物より温度が高い物の方を甘く感じますからね。このアイスやたらと甘いなあと思ってたんですが、そういう理由でしたか。今気付きました」

 そう解説し、また一口アイスを食べる目井さん。


「いや、解説してないで! お水を、お水ください!」


「ていうか、なんで、こんなの、平気で食べてる、目井さーん!」



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