かもしれない
休みの度に愛車を転がしては、あちらの町、こちらの街あの山…… など、様々な場所へと出かけている。
だが、やはり車の運転における心配事といえば事故だ。
もちろん運転の際は毎回精一杯気を付けているつもりだし、そのおかげか今まで一度も事故を起こしたことはない。が、やはり他人事だと考えるべきではないだろう。小学校の教師という職業柄、特に子どもを轢いてしまったら…… などと考えただけでぞっとする。
最近では、ゴールデンウィークは交通事故が増加するという話を聞いてますます不安を募らせていた。
そんな時、
「『かもしれない運転』をご存知ですか?」
「『子どもが飛び出してくるかもしれない』とか、色々なことを想定しながら運転することですよね?」
「ええ。大事なことですよね。轟さんはいつも気を付けていただいてるかとは思いますが。
ですがやはり人間だけでは気付けないこともあると思うんです。というわけで、ありとあらゆる状況を想定して、音声でアドバイスしてくれるAIを作成してみたんです。試しにお車に付けて使ってみていただけませんか?」
轟は早速車のドライブレコーダーを改造してもらい、その機能を付けてもらった。これでより安全に運転ができるようになるかもしれない、と安心つつ、試しに病院の駐車場からスーパーまで行ってみることにした。
「じゃあ、よろしくね」
「ハイ、分カッタカモシレナイ」
AIは音声(目井さんの裏声を録音したもの)で答えた。
「そんなところまでかもしれないじゃなくてもいいんだけど…… ともかく、スーパーに行きたいからそこまでの間にもし何かあったら教えてね」
「ハイ、カモシレナイ」
「じゃあ、早速出発……」
「待ッテクダサイ。モット念入リニ左右ヲ確認シタ方ガイイカモシレナイ」
「ああ、そうだね…… よし、誰もいない。大丈夫そうだね」
「イヤ、モット見タ方ガイイカモシレナイ」
「んー、でももう十分見たし、流石に誰も飛び出してこないと思うんだよね」
「ソウイウ油断ガ、危ナイカモシレナイ」
「うん、じゃあもう一度だけ…… そうだね。誰もいない。今度こそ……」
「待ッテ。左右ハ良クテモ、上下ガ危ナイカモシレナイ」
「上下とは」
「上カラハ隕石ガ降ッテ来ルカモシレナイ。下カラハ巨大ナ蝉ガ地面カラ出テクルカモシレナイ」
「……そりゃどんな可能性も全否定しちゃいけないんだけどね」
「運転中、轟サンガ突然変ナダンスヲ踊リダシテ、運転ヲ疎カニスルカモシレナイ」
「私をどんな人だと思ってるのあなた……」
「モウダメカモシレナイ。何ヲヤッテモ事故ル時ハ事故ルカモシレナインダ」
「それは正直否定できないけど、諦めちゃダメだよ……」
「考エダシタラキリガナイ。ソウダ、自爆シチマエバモウ事故ヲ起コスコトハナインダ。ソレガ一番ダ。ソウシヨウ」
「え? は? いやちょ、」
直後、昼下がりの町中にものすごい爆発音が鳴り響き、もうもうと煙が上がったという。
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