who is me

「そもそも『自分』とは誰なのでしょうか。


 たとえば、赤ちゃんの写真を見せられてこう言われたとします。

『この子はあなただよ。あなたはこの頃、誰かがくしゃみをする度に怖がって泣いていたんだよ』と。

 けれど、恐らくあなたはその子が自分だと確信はできないのではないでしょうか。

 

 第一に、自分が赤ちゃんだった頃のことを覚えていないからです。

 覚えていないことを他者に『やった』と断言されたところで、やはり自分だとは思えないものではないでしょうか。


 それに、年齢も身体からだも知識も経験も赤ちゃんとは随分異なります。

 もう誰かのくしゃみを怖がって泣くこともありません。

 同じ人物だとしても、成長と共に全く変わってしまったのです。果たして、これは本当に『同じ人物である』と言えるのでしょうか?

 同じ人物ではないとしたら、一体いつから違う人物に変わったと言えるのでしょうか?

 

 いえ、そんな長い期間のお話じゃなくてもいいんです。

 人間の細胞だって、毎日入れ替わっているわけです。そうなると、昨日と違う細胞で構成されている私は、本当に昨日と同じ私であると言えるのでしょうか?

 何かの情報を知らなかった昨日の私と、情報を得た今日の私は、同じ私なのでしょうか?


 そう考えていくと、5分ほど前の小腹が空いていた私と、満腹になった今の私は別人ということもできるのではないでしょうか。

 また、5分ほど前の悪事を働いてしまった私と、 自らの行いを反省している今の私も別人と言って差し支えないのではないでしょうか。

 つまり、あなたが腹を立てるべき相手は、もうこの世に存在しない5分前の私でありまして」


「とかなんとか屁理屈並べとけばごまかせるとでも思ったの~?」

 仁王立ちでゴミを見るような目をしている甘井あまい

「いえ、違うんです。決してそんな意図だったわけではなく、いや意図も何もなくてあのその、とにかく申し訳ありませんでしたっ!」

 甘井が冷蔵庫に大量にストックしていたプリンを誘惑に負けて1つ食べてしまった目井めいさんは、ひたすら謝り続けるのみであった。

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