遵守者

 校則が厳しすぎることで有名なとある中高一貫校でのこと。




「そちらのクラスの先生、いかがでした?」


 朝、高校1年生の生徒の問いかけに、隣のクラスの生徒達は首を横に振った。


「教室に入るなり叫んで飛び出して行ってしまいました」

 1人が代表して答えた。


「そちらもそんな感じですか。先生方皆様、叫んで逃げ出されるか、気を失うか、ぶつぶつ呟きながらご自身の頬をつねり続けるかのどれかですねえ」


 他の学年の生徒達も口々に言った。

「困りましたねえ。早く本日の授業を始めていただきたいのに」


「一体どうしたんでしょうねえ」


「何事も予定通りにこなさなければならないと、先生方ご自身がいつもおっしゃっているのに」


「卒業後にいい大学に入っていいところに就職して、人生で成功を収めるには、まずは学校でいい成績を取ることが大切だともおっしゃっていたのに」


「私達は言われたことを守っているのに、当の先生方ご自身に守っていただけないなんてねえ」


「そうですよ。私達生徒は、昨日校長先生に言われたばかりのことも早速皆で実行しているのに」


「校長先生、昨日の朝礼でおっしゃってましたねえ。

『確かに私達教師は、あなた達生徒に制服をきちんと着用することを義務付けたり、髪型や髪の色を指定したり、毎日持ち物検査をしたりと厳しくしている。だがこれは何も、あなた達生徒を管理するためではない。

 社会に出たら、目立たず個性を出さず、みんなと協調することが最も大切なんだ。だから私達は、今からその練習をさせてあげているんだ』って」


「他の先生方も同意してらっしゃいましたねえ」


「感動しましたよね。先生方がそこまで私達のことを考えてくれていたなんて」


「だから私達、昨日全校生徒で目井めいさんにお願いしに行ったんですよねえ」


「ええ。『顔も声も体型も、みんな同じにしてほしい』と」


「359人の全身整形は大変だったでしょうけれど、おかげで私達完全に同じになれましたねえ」


「顔も声も体型も、まるで複製したみたいになれましたねえ」


「私は両腕を骨折していたんですが、無理やりくっつけていただきました。とても痛いんですが皆さんと同じになるためなので辛くはありませんよ」


「これでもう誰も目立つことはないし、誰も個性がありませんねえ」


「話が戻りますが、先生方は本当に一体何をあんなに驚いてらっしゃったんでしょうねえ」


「さあ。そう言えば、今日校長先生にお会いした方いらっしゃいますか?」


「先程40名程で校長室に伺ったんですが、私達をご覧になった途端に部屋の隅に逃げ込んで震えてらっしゃいました」


「そうなんですか。何か恐ろしいことでもあったのでしょうかねえ」

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