心電図

正直ね、大人になるまで心電図って心臓の動きをグラフで見せてくれる機械っていうより、人の心臓の動きとシンクロした機械だと思ってたんだよ。


この言い方じゃ分かりづらかったかな…

あのね、子どもの頃姉ちゃんが入院したの。

ほら、あの人病気持ちじゃん? 今はかなり症状落ち着いてるけど、昔一回生死さまよったことがあったんだよ。


目井めいさんは頑張ってくれてたけど、ベッドの上の姉ちゃんの寝顔は心なしか苦しそうだわ、家の人に「覚悟した方がいいかもしれない」とか言われるわ。あの頃は毎日、あの人が死んだらどうしようって、怖くて気が気じゃなかったなあ…


で、ある日とうとう、「全力は尽くすけど、もしかしたら今夜が峠かもしれない」とか言われて、家族全員で病室に集まったんだよ。


峠かもとか言いつつも目井さんはまだなんとかしようと姉ちゃんに色々してくれてたけど、正直その時の姉ちゃんは素人、しかも子どもの目にも「ああ、これはもう…」って感じだった。


目井さんが必死になってる隣で、ギザギザした線を表示しながらピ、ピ、ピって鳴り続けてた心電図が、そのうちピーーーって平坦な音と、平坦な線を出すだけになった。


死んじゃったんだ。

みんな、俯いたり、泣き出したりした。


でも、僕だけは見たんだ。


目井さんが、心電図の画面に表示されてる直線の中央あたりに人差し指をあててた。で、そのまますっと画面の上方に向けて指を滑らせたんだ。


そうしたら、まっすぐだった線が指につられるようにぐんっと山みたいな形に盛り上がった。

それに続いて、それ以降の線も波状にギザギザし始めた。音もピ、ピ、ピに戻った。


「心臓がまた動きだしました。安定しています。これでもう大丈夫です」

目井さんは姉ちゃんの様子を色々と確認してから言った。




…まあそんなわけで、心臓が止まっても心電図のグラフをどうにかすれば、連動して心臓も復活するもんなんだって長年思ってたんだけど、あれって目井さんにしかできない芸当だったんだなあと…

でもとにかく、方法は何であれあの時姉ちゃんを助けてくれたのには今でも感謝してるよ、うん。

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