夜を駆けるのは好きではない。というかそもそも夜という時間が好きではないのだから当然だろう。死に近くなる時間。死が濃くなる時間。それが、夜。死に焦がれ、畏れる私が夜に怯えるのは自然の摂理。だからこそ一人、静寂の中で生を感じることが、翌日からも息をしていく為の儀式だったのに。


『また今夜も眠れないんだろ?』

 そう。また、今夜も。

『当たり前だろ。お前はオレたちの仲間になったんだから。いい加減諦めて受け入れろ。楽になるぜ?』

 私は睨み付ける。

『嫌。そんなこと、私は認めない』

 強情なヤツめ、と幼い外見の吸血鬼は首を竦め、それでも笑う。

『ま、そのうち嫌でも喉が渇いて渇いて仕方がなくなるだろ。そんときゃオレが助けてやるから遠慮なく呼びな』

『誰があんたなんか呼ぶか』

『ケケケッ。威勢のいいこって。嫌いじゃ、ねぇぜ?』

『私はあんたが嫌いだ』


 吸血鬼は夜を駆ける。獲物を捜し、寝床を探し、番を求めて。愛を知ることが出来たら、その時は、きっと。


 私は、好きでもない夜を駆けていく。『人間』としての私は、あの夜に死んでしまった。中途半端なバケモノはもう文字通り、お日様の下では生きられない。

 アレの言う通り、喉の渇きは止まらなかった。肉も魚も野菜も水も、何も私を癒してなどくれない。解っていた。血に、飢えている。けれど、それは最後の砦だった。血を飲んでしまえば、私の体は、本当に本当の化け物に変わってしまうだろう。

 それだけは、いやだ。ぜったいに、いやだ。

 熱に浮かされるように、何かに導かれるように、私は、一つの窓へと吸い寄せられ、そこで力尽きてしまう。甘い香りが充満する部屋で、私は、渇きを癒す存在を見つけてしまったのだった。

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