彼女は吸血鬼らしくない吸血鬼。
いち
「いってきまーす」
声をかけたくらいでは起きない彼女。
「ねぇ、ねぇったら!」
「うう……揺らすな……ばかやろぉ……」
まるで二日酔いのダメOLだ。
「私、学校行ってきますよ!」
「おぉ……カーテンは……」
「ちゃんと締め切ってます。おやすみなさい。行ってきます!」
「んん……またな……」
結局布団から顔すら出さなかった。お見送りくらいやって欲しいもんだ。でも無理か。早々に諦める毎日。だって彼女は二日酔いのOLなんかではない。なんと、吸血鬼なのだから。なので当然昼間は動けない彼女の為にカーテンを開けず、家の鍵はしっかりかけて学校へ行く。
彼女との出逢いは運命的だった……と思う。思うことにしている。何にせよ、彼女と出会って私は1人ではなくなったのだから。
会っていられるのは夜のほんの一時だけど、宿を提供してるだけだとも言えるけど、でもそれでも私は今幸せだ! ……し、幸せだったら幸せなのだ……!
彼女は私の血を吸わない。吸ったこともない。一度だけ、危うかったことがあるけれど、うん、あの夜だけは不可抗力だと思っている。
彼女は吸血鬼らしくないと思う。血を吸わないのかと訊いたら、馬鹿者、とゲンコツされたので、それ以来話題にしてない。トマトジュースはかなり消費する。一日に四リットル分の紙パックが消える。
あ、あと餃子が苦手みたい。ニンニクが入ってるから。ニンニク醤油の味付けにした豚肉を食卓に出したら泣かれたりもした。
夜は何処かへ行ってしまう。明け方より少し前に帰ってくる。まるで猫の集会にでも出掛けてるみたいだね、と笑うと、お前は呑気だと呆れられた。
十字架は怖くはないらしいけど、刺されたら死ぬし、凶器になるから嫌いだとか。そんなもので刺されたら、普通の人間でも死んじゃうよなぁと思ったのは内緒。
これは、そんな私と彼女の日常の記録である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます