セガ

この頃内職が忙しくなる。

知らない人からの依頼が多くなったのだ。

何でも「喧嘩ゴマでガンツー(独楽と独楽を思いきりぶつける荒々しい独楽の回し方)をした人の独楽の芯が割れた」という事が頻発したらしい。

大儲け出来たので当時は言わなかったが、「そんなモン、季節的なモンだろ?乾燥すりゃ木で出来た独楽は割れる事もあるだろ。ベア(リング)入れてたって割れる時は割れるんだよ」と思っていた。

ベアリングの意味は「地面に触れる抵抗を少なくして、独楽が回る時間を長くする」という事であり、「独楽を丈夫にする」という事ではなかった。

俺はベアリングを入れ終わって独楽を返す時に、「喧嘩ゴマの前に必ず水で濡らすように」とアドバイスした。

水で濡らした独楽は割れなくなったが「アイツにベアを入れてもらうと独楽が割れない」という評判に勝手になり、千客万来…というわけだ。

一度顧客になってしまえば「ベアが取れた」だの「新しい独楽を買った」だの、何度でも貢いでくれるようになるのだ。


そんなこんなで俺は金回りが良かった。


事件が起きたのはそんな時だ。

金持ちの息子が引っ越しをして学区外に引っ越したのだ。

そいつは金持ちパワーかなんかで学校を変わらず学区外から通ってきていた。

そいつが引っ越した場所が「湘南ビレッジ」というところだった。

それがマンションなのか、区画なのか、正式名称なのか、呼称なのか…それすら今でもわからない。それくらい貧乏人の俺には無縁の場所であった。

のり子屋は団地の中の「団地マーケット」という商業施設の中にあり、俺らは団地マーケットの前の広場で遊んでいる事が多かったが湘南ビレッジに住んでいる母親は「そこの子らと遊んじゃダメ」と子供に言っていた。

それが子供を通じて聞こえてきた事もあれば、直接言っているのが聞こえてきた事もある。

しかし子供同士は関係ない。親が特権階級であっても貧乏であっても友達は友達だ。だが子供の中には親に影響を受け、親と同じ事を言うヤツもいる。

金持ちの息子が俺の独楽の顧客になったのだ。

そいつが散々貧乏人を見下したような事を言ったので場が白けてしまったのだ。

「お前の客だろ?何とかしろ」という場の空気に俺は「村勇者が何か言ってるよ!」と何とか笑い話でまとめようとした。

親父が酒を飲みながら「ビレッジって村じゃねーか。『湘南村』ってなんだよ。そんなヤツらが偉そうにしてるのか」と笑っていた。だから偉そうにしてるヤツは『村勇者』。その場は笑いで何とか収まった…が、俺は担任に呼び出しを受ける。

呼び出された内容を聞いた俺は、

「散々な事を言われても我慢しなくちゃいけなくて、ひと事言ったら問題になるんですか?貧乏ってだけで罪なんですか?」と担任の女教師に聞いた。


女教師は泣きながら

「頑張れば報われる時が来るから。あきらめないで!」と俺を抱き締めた。

うん、違う。俺が質問したのは文字通りの意味だ、そういう意味じゃない。

それ以来、女教師は俺を贔屓するようになった。おかげで卒業まで俺は内職を続ける事が出来たので、小遣いをもらわないでもゲーセン通いが出来た。


ジョイパークに行った時、あるゲームと出会う。


ファンタジーゾーン

これがセガとの運命の出会いである。


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