第8話 空の好敵手

「タマさん、ごめん。ジュールが呼んでる。僕、行かなくっちゃ!」

「何があったの?」

「分かんない。状況を説明する余裕もないみたいだ。タマさん、1人で帰ってくれる?」

「何言ってんのよ!バカな子ね。あたしも行くに決まってるでしょう!さあ、早く案内なさい!」


 タマさんに怒られて、慌ててジュールの気配がする方に走り出す。

 僕とジュールは細い何かで繋がってるから、だいたいどこら辺に居るかが分かるんだよ。タマさんは体が大きくて足が速いから、僕が力いっぱい飛ばしても、しっかりついてきた。



 ジュールたちが居たのは、僕のテリトリーの穴から走って10分くらいの所にある、小さな湖のほとりだった。

 ジュールたちは今日はここで、魚をとってたんだ。僕は泳ぐのはあまり好きじゃないから来なかったんだけど。

 岸で魚を釣っているジュールとランカーの頭上から、大きな黒い影が襲い掛かっている。

 やばい!カラスだ!ランカーが必死に魔法で応戦しているが、ピリピリと雷を出しても少し怯むだけで、カラスは諦めずに襲い掛かってる。


 あ、危ない!

「ランカー!避けて。フーーーーーッ!」

 僕がカラスに飛びかかると、カラスは少しだけ上の方に逃げて、上から声を掛けてきた。


「カー。何だよ、猫か!邪魔すんじゃねえ。これは俺の獲物だ!」

「カラス、喋れるのか。僕のジュールたちを襲わないで!」

「ああん?なんだ、お前も転生獣か。っるせえ。俺の獲物だ。小人を食うと長生きできるらしいぜ!」

「そんなの迷信だよ。ジュールとランカーは、僕の友達だ。フーーーーーッ!」


 話しているうちに、僕の後ろでジュールとランカーも態勢を整えることが出来た。

 タマさんも毛を逆立てて一緒に威嚇してくれる。

 カラスは僕たち猫にとっても、強敵だ。何より上空から鋭い爪で襲われるのは、防ぐのが難しい。

 だが僕らは誇り高き猫!地上の王者だ。負けるものか!


 滑空してきたカラスに負けないよう、高くジャンプして迎え撃つ。

 僕の爪は避けられたが、すかさずランカーの魔法がピリピリと飛び、カラスを撃つ。ジュールは剣を構えているが、カラスはまだ間合いには入らない。

 タマさんがスッと気配を消して、僕から離れた。

「チッ。羽もねえくせに生意気な」

「羽があるから、逃げてばかりだね。さすが、弱いカラスは逃げるのが上手い」

「なんだと、くそったれが」

 急降下してきたカラスがバッサバッサと僕の上で羽ばたきしながら、爪で捕えようとしてきた。ふん。遅いよ!そんな攻撃につかまるような僕じゃないのさ。


「ハルーーーー!」叫びながらジュールが駆け寄ってきて、僕を踏み台にしてカラスに切りかかった。

「くそ、小人のくせに」

 カラスがその剣を避けた、その一瞬のすきに、後ろから飛びかかった白い影!

 タマさんだ!

「うわあっ、何しやがる」

「ニャー―――っ!オカマ舐めんじゃないわよ!ニャッ!」

 タマさんの鋭い爪が、カラスの尾羽根に引っかかり、黒い羽根がひらひらと舞い散った。

 その隙に、ジュールが僕に乗った。首の毛をしっかりとつかんで僕にまたがったジュール。

「ハル、ジャンプだ!」

 おう!もちろん分かってるんだぜ!まかしとけ!

 僕の最っ高のジャンプでカラスに肉薄し、ジュールの剣がカラスの羽の先をザックリと切った。


「クッソー、てめえら覚えとけ!このタツキ様がお前らごときに負けるわけがねえ。いつか仕返ししてやる!」


 カラスは高く一声鳴いて、上空へと逃げ去った。


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