第7話 タマさんをご案内

「みゃーーおん」


 あ、タマさんだ。いらっしゃいませ。

 今日はタマさんと二人でお出かけなのです。

 一度トカゲを食べてみたいとタマさんが言うので、僕の縄張りに案内するんだよ。タマさんの縄張りにはトカゲはいないらしい。


 タマさんは実は血統書付きの、美しい毛の長い白猫で、抱きつくともっふもふなのです。そんなタマさんですが、実はテリトリーに二つも穴を持ってます。凄いね!

 しかもそのうち一つが家の中に……

 普段はそこから虫が入ってこないように、タマさんがしっかり見張ってるんだけど、見張りに飽きたらその穴から出て、もう一つの穴からこっちの世界に戻ってこれるから、いつでもお出かけし放題なのだ。

 タマさんのおうちの人は、もちろん知らないよ。


 さあ、僕も行かなくっちゃ!

「にゃあ、にゃあ」

 あーーーけーーーてーーー!




 にゃあ。

 タマさん、おはようございます。

「おはよう。はる君はいつも礼儀正しいのね。良い子」

 ふふ。ありがとうございます。しかーし!これは世を忍ぶ仮の姿!

 僕は本当は、ハンターはーさんなのです。いざ、トカゲを狩りに行こうではないか!


 穴を潜ると、いつものように気持ちのいい空が出迎えてくれた。

「まあ!これはきれいな草原ね。素敵だわ」

 そうとも!ぼくの庭だけど、タマさんならいつでも遊びに来ていいよ。

 ほら、向こうの、あの木の側に大きな木がはえてるでしょう。その傍に岩場があってね。トカゲがいるんだよ。時々火を吹くから、気を付けてね!

「うふふ。分かったわ。さあ、行きましょうか!」


 タマさんと一緒に草原を駆け抜けると、フワッと花の匂いがした。目の端に小さな虫が見えて、ちょっと気になったけど、今日はタマさんが居るからな。がまん、がまんなのです。


 岩場に着くと、ごつごつした白い岩の上に、シルバーグレーの鱗を虹色にきらめかせるトカゲがいた。30センチはあるかも。尻尾の先まで途切れてなくて立派なヤツ!

 前を走るタマさんが、速度を落とした。足音を忍ばせて身を潜ませる。普段温和でのんびりして見えるタマさんだけど、流石、町内でボスをしているだけあるね。僕も負けてはいられないよ!


 風下からゆっくりと忍び寄るタマさん。僕はそれを邪魔しないように気を付けながら、少し角度を変えて別方向から近付いた。

 あと50センチ。

「シャーッ」

 トカゲがタマさんに気付いて威嚇した。タマさんは高くジャンプして、上からトカゲの胴に爪を叩きつけた。ざっくりと鱗をはがされ、それでも尻尾を振り上げて叩きつけようとするトカゲ。僕は反対方向から忍び寄り、その尻尾をガッチリと捕まえた。


「キーーー」

 超音波のように高い声を出して、トカゲは僕が抑えている尻尾を自分から切り落とした。

 タマさんの爪からも逃れ、喉を膨らまして火を吐く準備をしている。

「タマさん、気を付けて!」

「任しとけ!うりゃあああああ」

 再びタマさんが凄い高さまで跳び上がり、今度はトカゲの頭を抑え込む。

 吐こうとしていた炎を封じられ、なす術もなく捕まったトカゲ。後はもう、とどめを刺すだけだった。


「ふふ、ちょっと漢、出しちゃったかしら」

 カッコよかったよー、タマさん。もふもふー。

 大物だったので、二人で仲良くトカゲを食べた。お腹もほっかほかだよ。

 狩りが終わればあとはゴロゴロ、日向の暖かい岩の上で昼寝をするもよし。気持ちのいい草原で虫を追いかけるもよし。

 どう?僕の庭。最高でしょう!


 そして……タマさんと過ごす平和な昼下がりは、突然のジュールの声で終わりを迎えた。


 ―――ハルー!助けて、ハーーールーーー!―――





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る