第16話 そうして決戦のクラブ紹介日

そうしてついに決戦の当日がやって来た!

前日、体育館で全クラブの紹介が行われた際に、圭ちゃんと美鳥を見た新入生のどよめきを見て、まずリーディング部に興味を持ってもらうという最初のポイントは軽くクリアした。

 

 そうしてやってきたクラブ紹介の日。今日は男子限定図書館カフェだ。


 美鳥は制服の上に、きちんとアイロンをあてた白いエプロンをつけ、ちょっと緊張した顔をしている。

 私は美鳥のふわふわの髪を一束そっとつかんで鼻を近づけた。

「う~ん、あまり分からないな。美鳥、この香水をつけなさい!」

「真琴ちゃん、だめよ、香水なんて!学校なんだから!」

「男子は石鹸の香りに弱いんだから。大丈夫、そんなにきつくないから」

 準備室でお湯をわかしている巧があきれ顔をする。

「お前・・・目的が段々変わってやきていないか?」


 ‘男子はシャイだから自主的には来ない’という事で、巧と圭ちゃんが一年生のクラスに赴き、しばらくすると幼稚園児の引率のように、ぞろぞろと一年生男子を連れてきた。初々しい一年生が、三、四人ずつの団体で恥ずかしそうに、しかし明らかに何かを期待した顔で図書館に入ってくる。

「来たわよ、美鳥! はい、4名様ご案内!」

「真琴ちゃん、居酒屋じゃないのよ、ここ」

 

 一年生達はそれぞれ長机へ案内され、まず巧と圭ちゃんが簡単にリーディング部の説明をし、資料などを渡す。

 私は裏方として紅茶を準備し、美鳥が紅茶を運ぶ。一年生達はお茶を楽しみながら、ゆっくり本や資料を読んでもらい、読書を堪能してもらう、と言うのが狙いだ。

ま、実際には一年生男子は皆美鳥を堪能していたみたいだけど。

私にポーズを特訓された美鳥が、ちょっと髪をかき上げたり、小首を少し傾げてにっこり笑おうものなら一年生男子は皆顔を真っ赤にして慌ててうつむくか、ぼーっと見とれているかどちらかだ。

「マジで、可愛い!」

彼女が去った後、男子達がこそこそ話しているのが聞きながら、私は裏でガッツポーズをした。

「ふふふふ。美鳥をダシに使って大成功」

 圭ちゃんがため息をつく。

「藤堂さん・・・勝手に松島さんを煮たりしないでよ。それを言うならエサ」


 女子の場合も言わずもがな、大盛況だった。

もう図書館に来る時から違う。2、3人で連れ立って来て、図書館内でこそ静かにしているものの、入館前と後は、キャーキャー黄色い歓声で一杯だ。


圭ちゃんはさすが本場イギリス仕込み、紅茶の入れ方も様になっていた。女子への対応も手馴れたもので、紅茶を入れる合間にリーディング部の活動内容について話したり、質問に答えたり(一年生達は圭ちゃん個人への質問をしたかったみたいだけど)とそつなくこなし、爽やかな笑顔も欠かさない。来年のバレンタインデーは、福袋二個分に増えるね、絶対。

意外だったのは巧。彼は、自分は裏方が合っているから、と当初は紅茶準備係だけをする予定だったのだが、予想外に、最初から新入生がわんさかやってきた為圭ちゃん一人ではさばききれず、巧もウェイターをする事になった。

私も巧もどうかなあと思っていたのだが、巧が接していた女子達も、まんざらではないみたい。頬を赤らめて女子同士でひそひそ話し合っている。不思議に思った私はしばらく観察してたら、彼女達の熱いまなざしは3分の2が圭ちゃん、3分の1が巧に注がれていた。

結構巧も人気があるみたいなのだ。

こそこそ一年生達の内緒話も聞こえる。

「すっごいかっこいい!深沢先輩って王子様みたい!!」

「でも、眼鏡の人も、大人っぽくて素敵じゃない?」

「あの冷たい感じがいいよねー!」

・ ・・まあ、黙って立っていればそれなりにかっこいいし、知的な雰囲気もしない事はないけど。

圭ちゃんの事もそうだけど、知らない方が幸せな事ってあるよね・・・。


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