第9話 本馬鹿
ふと、圭ちゃんが顔を上げた。
「あ。 藤堂さん、来てたんだ」
美鳥もこちらを振り向く。
美少年美少女に見とれていた私は、名前を呼ばれて我に返った。
うわ、恥ずかしい。きっとまぬけな顔をしていただろうな。大体、いつも教室で顔を合わせているのに今だに見とれるなんて・・・。
「あ、圭ちゃん、あの・・」
圭ちゃんは、いらっしゃい、と楽しそうに笑った。
「聞いたよ、巧に強制入部させられたんだって?何はともあれ、メンバーが増えて嬉しいよ」
美鳥は立ち上がり、こちらに駆け寄ってきたかと思うと、がばっと私を抱きしめた。
「真琴ちゃん!嬉しい!強制でも何でも大歓迎よ!何度誘っても全然来てくれなかったんですもの!!」
「あ、あはははは」
笑顔が思わずひきつる。
本当に入部する気ゼロだったんだけどね。今でも辞めたい気120パーセントなんだけどね。
「へえ、逃げないでちゃんと来たな」
美鳥にしっかり抱きしめられ困っていた私の背後から、巧の嫌味な声が聞こえた。
美鳥がようやく私を放して、巧ににっこり微笑みかける。
「あ、須藤君!すごいわね。真琴ちゃんが入ってくれるなんて。あんなに嫌がってたのに」
「そうだよ。巧、どうやって勧誘したの?」
と言う圭ちゃん達の問いに、巧は例の本を片手で持ったまま
「まあちょっと・・ね」
とこちらを見ながらにっこり笑った。
な、何も言い返せないのが悔しい。
そんな私をにやにや眺めながら、巧は、
「じゃ、全員が揃った所で本日の活動を始めるか」と、さっさと近くの長机に座った。圭ちゃんと美鳥も私が強制入部と言うだけで何となく理解したのか、入部理由にはそれ以上つっこもうとせず、彼の向かい側の席にそれぞれ座った。私もしぶしぶ美鳥の隣の席に腰を下ろす。
真琴、と巧は続けた。
「新メンバーのお前にリーディング部の事を説明しておこう。まず部長が俺、副部長が深沢、会計が松島さん」
歓迎の気持ちを込めて、改めて私に微笑みかける圭ちゃんと美鳥に、私は肩頬をひく付かせながらも笑い返す。
だから本意ではないんだってば。
「活動内容は、基本的に、ひたすら読書!他は、毎日図書館に集まり司書の先生と一緒に図書の貸し出しと管理、及び図書館の運営を行い、図書新聞の発行をする。週に一度は各自が読んだ本について感想を述べ合ったり、時に同じ本を読んでディベートしたりする」
「なにそれ、地味っ!」
思わず声に出た。巧がじろりと私を見る。
「もともと読書は地味な作業だ。皆でわいわい集まって一冊の本を読むものか。読書や感想を述べ合う地味な作業を繰り返してこそ、造詣が深められるんだ」
「でも、そんな事して何になんの?」
彼は目を細め、ますます私を睨みつける。
うわあ、凶悪な面構えだ。なんかこういう仏教絵なかったっけ。
「人の話は最後まで聞け。リーディング部の活動目的は、ただ一つ!読書の素晴らしさをうちの全生徒に伝える事だ!昨今大人も子供もめっきり本を読まなくなったと言われて久しいが、それは子供のうちに読書する経験が少ないからだ。大体子供時分に読まなくて大人になったらいきなり読み始める、なんてなるわけがない!よしんばそうなったとしても悲しいかなもう読む時間がない。人生は限られているんだ。読書は幾つになってからでもいいのだが、早ければ早いのが一番良い!よって、俺達リーディング部員が多くの本を読み、本の魅力を伝え、皆に今から一冊でも多くの良著に出会い、人生を豊かにしてもらうのだ!」
いつもクールな巧が顔を紅潮させ、拳を振り上げてる。
私は熱い演説に呆気に取られた。
出た。本馬鹿だ・・・。
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